迷走する韓国サッカー、代表監督交代のてん末=チェ・ガンヒ新監督、爆弾発言の背景にあるもの

吉崎エイジーニョ

「アジア最終予選を勝ち抜くまでが自分の役割だ」

韓国代表を率いることになったチェ・ガンヒ新監督だが、就任会見では「任期はアジア予選を勝ち抜くまで」との爆弾発言で驚かせた 【写真:Yonhap/アフロ】

 年の瀬の韓国サッカー界が大荒れだ。
 12月8日の韓国代表監督チョ・グァンレの電撃解任から、不可解な新監督抜てきへ。今季、全北現代をKリーグ王者に導いたチェ・ガンヒ新監督からは、22日の就任会見時に爆弾発言が飛び出した。

「監督は引き受けるが、任期は2013年6月までだ。アジア最終予選を勝ち抜くまでが自分の役割だ」

 2014年ワールドカップ(W杯)・ブラジル本大会では指揮を執らない、という。異常な事態だ。こういった一連の騒動の中、大韓サッカー協会(KFA)の不手際がメディアで大批判を浴びている。

 チョ・グァンレと同じく任を解かれた、A代表前コーチのパク・テハは言った。
「1月のアジアカップ時が最高のチーム状態だった」
 準決勝でザックジャパンをPK戦にまで追い詰めたチームは、約半年後の8月10日に札幌ドームで0−3の惨敗を喫した。その後、チームの調子はついに戻ることはなく、12月にまさかの大騒動が起きてしまう。5月に発覚したKリーグ八百長事件に揺れた2011年に、もうヒトヤマ起きている、という状況だ。

たった1試合の敗北で更迭されたチョ・グァンレ前監督

 チョ・グァンレの電撃的解任について、KFA側は「このままではW杯出場が難しいと判断した」と、その理由を発表している。韓国代表は11月15日、W杯アジア3次予選・レバノン戦(アウエー)で1−2の敗北を喫した。このため、最終予選出場決定が来年2月29日の3次予選最終戦に持ち越された点を重く見た。

 このクウェート戦(ホーム)では、引き分け以上なら、韓国の最終予選進出は確定だ。しかし敗れるとW杯への道が事実上潰(つい)えてしまう。3次予選突破を争うレバノンの最終戦の相手は、現在全敗のUAE。レバノンが勝てば、一気に1位から3位に転落してしまうのだ。

 とはいえ「たった1つの敗北で更迭?」という印象もある。10年7月に就任したチョ・グァンレの通算成績は12勝5分3敗(アジアカップ準決勝・日本戦は公式記録上は引き分け)だった。実はチョ・グァンレ更迭のうわさは、韓国メディアの間で少なからずささやかれていた。

 ウラの解任理由は「協会と代表監督間の葛藤」。チョ・グァンレは、もともと「反体制派」だった。Kリーグ監督時には、たびたび選手の代表選出に反対の立場を取った。KFA側はその在野精神を買い、韓国サッカーに新風を巻き起こすことを期待した。

チョ・グァンレとホン・ミョンボの対立が火種に

 しかし結局、関係構築はうまくいかなかった。火種は、ホン・ミョンボ率いるU−22代表との選手選出重複問題。チョ・グァンレは若手を重用したため、両者の間に摩擦が起きた。協会が仲裁に入ろうとするも、チョ・グァンレは会見で「選手選出はわたしの権限。協会は口出ししてほしくない」と毒づく一幕も。特にチョ・グァンレの方が強い姿勢に出だ。

 そもそも2010年W杯以降、韓国サッカー界では「いつホン・ミョンボがA代表監督になるのか」というのが、関心事の1つだった。即座に就任ということはないだろう。それでもいつかは、指揮を執ることが確実視されている。そんな雰囲気の中でも、チョ・グァンレは夢だった代表監督の座を引き受けた。そして目の上のたんこぶとも言えるホン・ミョンボと徹底的にやり合った。

 解任された後、チョ・グァンレは「正しい手続きに則った解任ではない」と、強い不満を口にした。というのも、監督人事に権限を持つ技術委員会(強化委員会)の承認を得た解任通告ではなかったからだ。チョ・グァンレに不満を持つ、KFA幹部クラスの会議での決定が本人に告げられたのだという。いずれにせよ、新監督就任問題の火種は、実はW杯・南アフリカ大会後からくすぶっていたのだ。

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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