酒井宏樹、誰も予想できなかった急成長=ブラジルが認めた柏の右サイドバック

鈴木潤

レアンドロ・ドミンゲスの存在が転機に

クラブW杯のサントス戦ではネイマール(右)とマッチアップ。南米王者にも恐れることなく立ち向かい、果敢な仕掛けからチャンスを作り出した 【Getty Images】

 今年3月、東日本大震災の影響でJリーグが一時中断した。先述の通り、開幕戦にはベンチにすら入れなかった酒井だが、その中断期間中に行われた指宿キャンプから徐々に持ち味を発揮できるようになっていった。起用するタイミングを見いだしたと言わんばかりに、ネルシーニョは再開初戦となった第7節・大宮アルディージャ戦から酒井をスタメンの右サイドバックに抜てきするのである。

「酒井に足りないのは自信だけ。それさえつかめばJ1でも十分にやれる」
 北嶋秀朗も井原正巳ヘッドコーチも酒井をそう評していた。酒井が自信を深めた要因として何より大きかったのは、右サイドでコンビを組むレアンドロ・ドミンゲスの存在だろう。絶対にボールを奪われないこのクリエーティブなアタッカーは、敵のマークを引き付け、「ここで上がれ!」とオーバーラップを仕掛ける最高のタイミングを、実戦を通じて酒井にたたき込んでいった。

 第10節の浦和レッズ戦では、試合開始から1分にも満たないうちに、得意の高速クロスで北嶋の先制ヘッドをアシスト。レアンドロとのコンビで、原口元気と宇賀神友弥のサイドを凌駕(りょうが)した。チームの首位浮上と、浦和という国内屈指のビッグクラブを下す勝利に大きく貢献したことで自信を深めた酒井は、まるでたがが外れたかのように、その後は自らのポテンシャルを開放し、大活躍を見せていく。

 ここからは描いた上昇曲線に目を見張るばかりだった。年齢からしてU−22代表に呼ばれるのは当然だとしても、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督の目にもとまり、10月にはA代表招集の声が掛かった。出場機会こそなかったものの、183センチというサイドバックとしては規格外の体格に加え、驚異的なスプリントとジャンプ力を兼備した身体能力の高さ、そしてあの高速クロスの切れ味が広く知れ渡ると、多くのメディアからは「内田篤人から日本代表の右サイドバックの座を奪うのは時間の問題ではないか」との高い評価を受けた。

近い将来、活躍の場は海外に移るだろう

 そして、ついにはコパ・リベルタドーレスを制したブラジルの名門サントスが酒井に興味を示したと報じられた。くしくも、柏がJリーグを制し、クラブワールドカップ(W杯)での対戦が実現したとあって、日本に大挙したブラジルメディアは、こぞって酒井に熱い視線を浴びせた。酒井はそのブラジルメディアが抱く興味に、十分応えるパフォーマンスを披露したと言ってもいいだろう。準決勝では、サントスというチームや、ネイマールとのマッチアップに恐れるどころか、まるで「南米王者相手にも自分のプレーは通用する」と言わんばかりに試合の中で自信を深め、アグレッシブな仕掛けからサントスの左サイドバック、ドゥルバルを翻ろうしてチャンスを生み出した。しかも54分には打点の高いヘッドから追撃の一撃をも食らわしたのである。

 試合後の記者会見の場では、ブラジルメディアから酒井に関する数多くの質問が、ムリシー・ラマーリョ監督に向けて投げ掛けられた。
「若い選手で、J1でのプレーは1年目だと聞いている。いろんなことを吸収して、将来は花咲く選手だと思う」
 敵将は酒井のプレーに高い評価を与えた。サントスからのオファーは、ラマーリョ自らが酒井を気に入ったからだとも伝えられている。その点から推測しても、この言葉は決してリップサービスなどではなく、あらためて酒井の能力を認めた彼の本心だと受け取っていいのではないだろうか。

 また、クラブW杯での活躍は世界へと発信され、そのことで酒井は世界のサッカー市場からも注目を集めるはずだ。今後はサントスだけでなく、欧州のクラブから声が掛かったとしても何ら不思議はない。
「まだまだレイソルで成長したいんで」
 その言葉とともに、柏への残留をずいぶん前から表明していたが、近い将来、この若きサイドバックは海外のクラブへ、その活躍の場を移すことになるだろう。酒井のサクセスストーリーはまだ始まったばかりにすぎない。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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