元王者ライコネン、3シーズンぶりのカムバック=F1 “アイスマン”の素顔と復帰までの舞台裏
ラリーへの転身、F1への復帰。その舞台裏
07年、最終戦ブラジルGPで優勝し、逆転で年間王者を獲得した 【Getty Images】
結局ライコネンはフェラーリを離脱するが、マクラーレンのルイス・ハミルトンのチームメイトになるという選択肢は選ばなかった。同等の速さを見せていたレッドブルはもともとレッドブルドライバーにしか興味がない。だから、ライコネンとしてはタイトルも取ったし、あまり未練もなくF1継続の道を断ち切ったんだろうと思う。その後WRC(世界ラリー選手権)に転身。今年は”ICE1レーシング”というチームを作って、コ・ドライバー(※ナビゲーター)やスタッフの給料なども自ら払っていた。今回の復帰の背景に、F1で稼いだお金を使い果たして金策に走ったとのニュースもあったが、それは大きな理由ではないだろう。
戻った情熱「ほかのクルマと戦いたくなった」
再び歓喜の瞬間を迎えることはできるのか 【(C)Getty Images/AFLO】
ライコネンはここでスイッチが入ったんだと思う。実際、彼はF1復帰の理由に、『タイムと争うのではなく、直接ほかのクルマと戦いたくなった』と話している。今年のF1を見ても、ピレリタイヤのおかげで戦略にも幅もでき、DRS(可変リアウイング)でオーバーテイクも増えた。純粋にドライバーとしてレースを楽しめると思ったのではないか。
そうしてライコネンは、12年のシートがまだ埋まっていないチームから模索した。そのひとつがウイリアムズ。
ウィリアムズとしては、投資家にアピールするためにライコネンは欲しかった。一方、ウィリアムズの戦闘力に不安を持っていたライコネンは、他チームにもアプローチしていた。ただ現実的な選択肢として、ウィリアムズとロータスが残り、その両者を比較すると総合的にロータスの方が力があると判断したのだろう。ロータスはその前身であるベネトンやルノー時代でも勝てるクルマを作れるチーム。ここ数年、レッドブル、マクラーレン、フェラーリ以外で勝ったのはロータスとブラウンGP(現メルセデスGP)だけだ。
思惑が一致したロータスへの復帰
ライコネンはF1デビューのチャンスをくれたザウバーで1年過ごしたあと、マクラーレンに5年、フェラーリに3年とキャリアのほとんどをトップチームで過ごしており、デビュー年以来の中団チームが復帰先になるが、2年のブランクから慣れていくためにはいい環境になるはずだ。僕は勝てないクルマに乗っているときこそ、ドライバーの真の力が試されると思っている。
ただ、相変わらずのエピソードもある。
先日ル・マン・シリーズのクルマをテストしたとき、レギュラードライバーのアンソニー・デビッドソンのタイムをあっという間に更新してみせたが、クルマを降りるとさっさと携帯電話をいじりだして、エンジニアとのデブリーフィング(※乗車後に行われる技術的な報告会)には興味を示さなかったという。まあ、本人としてル・マン・シリーズは本気ではなかっただろうし、あらためて自分の力を確認するいい機会ぐらいにしか思っていなかったのかもしれない。ともかく本人はどう思われようが、周りのことはまったく気にもしていない。ライコネンはやはりライコネンである。
彼が帰ってくることで、12年は00年ミハエル・シューマッハ(メルセデスGP)以降、年間タイトルを獲得した6人全員がそろうことになった。
まさに夢のラインアップである。
<了>