「ももクロとプロレス」――“あの熱”よ、もう一度/前編
プロレス・格闘技ファンを引き付けてやまない「ももいろクローバーZ」、その魅力に迫る 【(C)STARDUST PROMOTION INC.】
ももクロのライブといえば、煽りVTRのナレーションが立木文彦氏、ステージに武藤敬司&神無月が登場などプロレス・格闘技テイスト満載。全日本プロレス10.23両国大会には「今、会える悪役」グレート・クローバーZとして“参戦”した(ももクロ本人は「よく間違えられる」と否定)。その裏には「プロレスファン」として知られる川上マネージャーと、昨年12月の日本青年館からステージ演出を手掛ける佐々木敦規氏の存在がある。
佐々木氏は、フジテレビのK−1中継やPRIDE中継、レッスル1、格闘技情報番組「SRS〜スペシャルリングサイド」に携わり、近年はFEG映像担当としてK−1関連のVTRを一手に引き受けてきた。今、佐々木氏は「かつてのプロレス・格闘技の“熱”をももクロで再現したい」という。プロレス・格闘技ファンを引き付けてやまない「ももクロ」の魅力とは。そして「ももクロとプロレス」の関係とは?
(情報協力、大貫真之介(アイドル)、佐瀬順一(プロレス))
ももクロが受け継いでるのは「沢尻エリカ」の遺伝子!?
ももいろクローバーZ(左から有安杏果、佐々木彩夏、百田夏菜子、玉井詩織、高城れに) 【(C)STARDUST PROMOTION INC.】
「設楽君はドはまりしてて毎日電話が来るんです(笑)。芸人に刺さるんですよね。そもそも、ももクロのファンにはウェブデザイナーとか異様にクリエイター系が多くて(笑)その中で芸人、バナナマンとかおぎやはぎとかみんながいろんな媒体で『ももクロはいい!』って言ってくれるんでありがたいですよ。
なんで芸人に刺さるかというと、芸人は芸を本気で考えているから、作り物か、作り物じゃないかを見分ける目利きなんです。作り物は“ああ作り物じゃん、虚像の世界じゃん”となるんですけど、ももクロはウソついてないって。設楽君が中野サンプラザ大会のDVDを見て『“ショーシャンクの空に”と“ライフイズビューティフル”を超えた』と言ってました(笑)」
――佐々木さんは「とんねるずのみなさんのおかげでした」などのバラエティと、K−1中継や「SRS」など格闘技をずっと手掛けてこられましたけど「アイドル」との関わりはいつからですか?
「フジテレビのCSで『アイドル道』という番組の演出をやってからですね。それまでアイドルは全くの畑違いだったんですけど、16、17歳の女の子を10人渡されて『何か番組を作ってくれ』って言われて『ええ!?』って(笑)。そのメンバーの中に沢尻エリカとか中川翔子、紗栄子、北野きいとかがいたんですよ」
――後の大物揃いじゃないですか(笑)。
「そうなんです(笑)。それで手探りでやるうちに『こう育てればいいんだ』というのを自分なりに会得できたんです。番組は2年ぐらいで終わったんですけど、昨年の春頃、ももクロの川上マネージャーから連絡を貰ったんです。川上さんはずっと沢尻のマネージャーで『アイドル道』の頃は沢尻自身が映画『パッチギ』のオーディションに受かったり駆け上がる時期だったんです。その頃に僕は沢尻と一緒にいて、現場で話したりする姿を川上さんは見て下さってたんでしょうね。川上さんに『今、アイドルグループをやってるんだけど一度見に来てくれないか』と言われて、石丸電気の300〜400人のハコで初めてももクロのステージを見て圧倒されちゃったんです。アイドルはAKBこそ知ってたけど全然興味がなくて、でも部活な空気とか全力な感じがすごく伝わってきて『面白いな』って。そしたら川上さんから『12月のファーストコンサートの演出をしてくれないか』と。僕はテレビの中では演出をやってきましたけど本格的なコンサートの演出はしたことがなかったんです。でも『ももクロはテレビを意識したものをやりたい。おもちゃ箱を引っ繰り返したような“テレビのバラエティ”を分かってて、プロレス・格闘技に相通ずる“熱”を伝えていきたいので、それが出来るのは佐々木さんしかいない』と言われて、だったら肩肘張らずに僕に出来ることをやろうと」
――なるほど。
「同時にテレビ朝日の動画で『ももクロchan』という番組の演出も始めたんですけど、そっちは得意分野なんで。要はK−1、PRIDEでいう『SRS』の位置付けで『ももクロchan』は煽り用、プロモーションツールとしてやらせていただいて。有料動画ですけどおかげさまでNO.1で、それで今に至るという感じですね」
――そういう流れだったんですね。
「沢尻からなんですよね。僕と川上さんはよく『あんな最高のプロレスラーはいない』と言うんです(笑)。あの子は全部分かっているんですよ。ある意味、時代に反逆し、芝居をさせれば素晴らしい芝居をし、最高のエンターテイナーであり。僕、個人的にも仲がいいんですけどマスコミで報じられてるような子じゃないんです。無茶苦茶いい子で、でも『平成の勝新太郎』みたいなところがあって(笑)そういう意味で魅力満載な子なんですよ」
――今は色気のある、破天荒なタイプの役者や芸人が生きづらい時代ですね。そう考えるとももクロも「アイドル」の枠からは確実にはみ出してますけど(笑)。
「そういう『沢尻の遺伝子』みたいなものが僕にも川上さんにもあって(笑)そこの部分でももクロみたいなものを持っていけたらいいね、みたいに思ってて。ももクロもいいスイッチを持っているんですよ」
ももクロだけはガチ! アイドルなのにリミッターなし
ももクロはいつだって全力、いつだってガチ! 【t.SAKUMA】
「そこはケースバイケースのような気がしてて、信頼関係はあるんですけど、こっちが言ったことを何の疑問も持たずに信じてやるんですよ。何回も裏切られているのに(笑)。イベントに出演した時、リハで『ステージが滑る』と言い出したんで、じゃあ途中で裸足になっちゃえって言ったら『分かりましたー!』って裸足になって踊ったんです。でも裸足になろうが滑るもんは滑るんです(笑)。ステージが終わったら『全然滑るじゃん!』って言うから、そんなの分かるじゃん、パフォーマンスだぜって言ったら『なんだ〜!』って笑うんですよ。そこで怒るんじゃなくて笑うんです(笑)」
――伸び伸びやってますねえ(笑)。
「煽り言葉を教えると『どうせプロレスの名言でしょ』って言うけど、お客さんが喜ぶから言ってごらんっていうと『喜ぶならやるー!』って。ロックイベントのステージで『ロックファンのみなさん、目を覚ましてください!』って煽ってるんですけど、本人たちはお客さんが喜ぶと思って言ってて(笑)お客さんは大人だから『イエーイ!』って乗ってくれるんです(笑)。本人たちも喜んで帰ってくるんですけど、取材で『あの言葉は小川直也が……』って教えられて『そうなんだ! 佐々木さ〜ん!』って一瞬怒るんだけどすぐ笑って忘れてくれる(笑)。その繰り返しですね。余計な詮索をしてこない、こいつらどこまでピュアなんだろうと思うんです。狙ってる感じはしないんですよ。僕はよく『アイドルは笑わせようとしたらダメ』って言うんです。人を笑わせようとして行動するとサムくなる。それはよっぽどの腕がないと。芸人はそれで食ってるんだから」
――「計算」が見えると白けますね。
「そう! こいつらが計算しちゃうと一気にサムくなる気がします。だから『余計な計算はするな』とはよく言ってます。アイドルは笑われた方がいいんですよ。それも『素』で、作らずに。ただ、笑われることもちょっと腕がいるんです。それは経験だったり、会話の間だったり。そういうことの嗅覚がこの子たちは物凄くあって、変に作り込まず、さりげなくできちゃう。メンバー全員、そういう特異なエンターテイナーの資質があるんです」
早見あかりの脱退はももクロ存続の危機だった 【t.SAKUMA】
「あれは半端なかったですね」
――ももクロ存続の危機でしたよね。
「そうですね……。普通『アイドル』はオープンにするリミッターがあるんですね。僕はテレビをやってるから特に感じますけど『ここは見せない』とかいろんなリミッターがあります。でも、ももクロの場合、そのリミッターが事務所側にないんですよ(笑)」
――ないんですか(笑)。
「早見の脱退もガチですからね。早見が辞めることも、それを他のメンバーが一切知らなかったことも、早見が他のメンバーに脱退を告白する瞬間を3台のカメラで追ったのもすべてガチです。本人たちには酷なことをしたかもしれないけど、結果、それがドラマに繋がっていくことをふまえるとやって正解だったかなと思うんだけど。ももクロはライブでお客さんに『ももクロのライブに来る時は頭のネジを1本外して下さい』って言うんです。そのためのドライバーを貸しますよ、思い切り楽しんで下さい。その代わり私たちは包み隠さず全部見せますよ、という。そういう姿勢は事務所も本人もありますよね」
――覚悟があるんですね。
「ええ。僕が見る前の2年間、苦労してる時期があるんですよね。マネージャーの運転する車で日本中に行って、ホテルに泊まるお金もないから車の中で寝て、どっかの温泉でお風呂に入って移動する。マネージャーの教育方針も厳しくてメンバーも色々変わったり、一時9人いたり。そもそも代々木の路上で10人にも満たないお客さんの前でライブをスタートさせてますから若い割に『叩き上げ』で、肝が据わってるところがあって、順風満帆が似合わないという(笑)。何かいつも背負ってるんですよ。『ピンキージョーンズ』という曲の『逆境こそがチャンスだぜ』という言葉はももクロのためにあるんじゃないかと思います。プロレスで言うと点が線になる、アングルに事欠かないです。その都度ハードルがあって、本人たちは泣きながら、這いつくばって越えているんだけど、僕から見たら『涼しい顔』をして越えてくる感じがあるんです。そんじょそこらのことでは動じない、芯の強さがありますね」
――そういう感じは伝わってきます。
「リーダーは百田ですけど、精神的なリーダーは早見だったんですよ。凄く支えてたし、アイドルの縮図ですけど『誰がセンターなんだ』というのは分かっているんですよ。でも百田という子はピュアすぎるぐらいピュアな子で、前に出たがらないんです。『ビッグバンベイダーの甲冑』をモチーフにした熊の形をした『ベアダー』を作って、他の子はヘルメットを被るんですけど百田は『ベアダーを被るのは嫌だ』って泣くんです。格好悪いから嫌じゃなくて自分だけ目立つのが嫌だって。それをずっと後ろで早見が『しっかりしなさい』ってやってきたんです。だからMC回しも早見だったし、本当に早見が辞める時はヤツらは辛かったと思いますよ。だから、サンプラザの翌日からあえて『トーク七番勝負』をやったんです」
――涙のお別れの翌日からスタート、が凄いんですよね(笑)。でもそこで『自分たちでやらないといけない』と踏ん切らせた。
「ましてお金をいただいて何百人ものお客さんを入れてテーマが“お金”とか“プロレス”とか全く畑違いのことですから(笑)。MCを受け継いだのがあーりん(佐々木彩夏)で、年下ですけど一番プロ意識が強くて、弱音は絶対に吐かない子なんです。そのあーりんが終わった後に『上手く出来ない』って悔しくて泣きましたからね。
終わった後は毎日反省会です。しかもハードルの高いお話です。『あそこはこう出るべきだったね』とか『あそこは餌を撒いておいてここで落とすべきだったね』とか『お笑い文法』的なことを言うんです。『私やる』『いや私』『どうぞどうぞ』もそうだけど、やるなら綺麗に決めろ、それを明日やってみよう、と。そんな反省会を毎日やって、翌日にはちゃんと直ってるんですよね。本当に吸収力と対応力は凄いな、と。決して褒めてばっかじゃないけど、そういうところは凄いです。一日一日、顔が変わっていきましたから」