世界のトップスケーターが集まる、米国の“チーム佐藤”=佐藤有香&ジェイソン・ダンジェン夫妻インタビュー

野口美恵

シズニーは「精神的に強くなったと胸を張って言える」

昨シーズンからチームに加わったアリッサ・シズニー(米国)。GPファイナルで初優勝し2度目の全米女王に輝くなど結果を残した。 【写真:ロイター/アフロ】

――2010年GPファイナル女王のアリッサ・シズニー(米国)。彼女は以前はジャンプに波がありましたが、精神的にとても強くなりましたね。

ジェイソン 彼女は昨シーズンから加わったのですが、まずは技術面から変えていきました。正しいジャンプのフォームを毎日、彼女にとってルーティンになるよう繰り返し練習したんです。それ以上でもそれ以下でもないです。彼女は以前、跳ぶ前の助走のときから何かを怖がっているように見えました。それはジャンプがルーティンになってしまえば解決することです。今は全てのジャンプの動きに一貫性がある状態まで完成しました。みんなが「彼女は精神的に弱い」とレッテルを貼ってきた。そのことが彼女をさらに弱くしていた。でも今は違う。精神的に強い選手になったと胸を張って言えるはずです。

有香 アダムやアリッサは努力型で、毎日の生活に関しても見習う部分があります。フィギュアスケーターとして大切なこと。毎日自分を磨いていくこと。そういった部分に感心させられています。

――バレンティナ・マルケイ(イタリア)も加わりましたね。

ジェイソン ニコライ・モロゾフの所から6月に来ました。彼女も遥同様にケガを抱えていて夏はほとんど滑れなかったので、GPシリーズや国内戦の戦い方を相談した結果、とりあえず出場することになった段階。まだこれからです。

――小塚崇彦(トヨタ自動車)も振付でデトロイトに行っていますね。

ジェイソン タカは素晴らしい子です! とてつもない技術的才能があって、タフで、試合が好きなタイプ。それに、とても経験のある有香の父(佐藤信夫コーチ)が教えているんだから優秀に違いない! ただ今年は、皆が彼に期待し過ぎている感じがします。誰もが波はあるのに、世界選手権銀メダルの次はもっと何かを、と期待してプレッシャーをかけている。タカは本当にタフな選手だと思います。

スケーティングの秘訣は、基礎の毎日の繰り返し

――お二人のチームの選手はみなスケーティングがスムーズだと言われます。どんな指導をされているのでしょう?

ジェイソン 特にスケーティングの練習時間が長いということは無いですが、スケーティングをやらない日はありません。毎日のプランがあって、同じ練習を毎日繰り返す。それでちょっとずつ成長していって気持ちよく滑れるようになった結果でしょう。クロスオーバー(互いに足を交差させて滑ること)とかでも、しっかり一歩一歩に乗っていくことが大切。あと、「この動きは次の動きの準備」など、動きの意味を理解することは大切だと思っています。

有香 確かに、毎日同じことを繰り返しているだけですし、他の先生が言わないような特別なことを言うわけではありません。ただ、基礎的な面は色々と注意していますね。例えばスピードのコントロール。やたら走っていれば良いものでは無く、その選手の筋力やタイミングにあったスピードが一番良いんです。そして滑れるようになって自信が付いてきたときに、もっと攻撃的になるからスピードが自然と加速していくというのが理想でしょう。

――たくさんのトップ選手が同時に氷に乗っているのでしょうか?

ジェイソン 僕達のデトロイトのリンクには、一つのオリンピックサイズ(国際規格の60m×30m)と二つのNHLサイズ(国際規格より小さい)があって、選手は自分が出る大会に合ったサイズの方のリンクで練習するよう分かれています。日本とヨーロッパの試合はオリンピックサイズ、北米の試合はNHLサイズで行われることが多いので。

有香 GPシリーズは世界各地に行くので、それぞれの選手に合ったサイズに分かれて練習できる。すごく恵まれた環境です。でも、私達2人はほとんど氷に乗りっぱなしですね。毎日が楽しいですし感謝の気持ちで一杯ですが、時間に追われて必死に一日一日を過ごしている状態です。

お互いの性格や指導法を補い合える、夫婦コーチ体制の利点

――お二人が夫婦で教えているという体制についてはいかがでしょう?

ジェイソン とても心強いし、お互いがジャンプを一緒に観て相談しあったりできるのが良いです。有香は技術を見る目が優れていて、全体を見渡すのがうまいです。僕のほうが細かい技術やコツを教えるタイプ。選手によってスタイルが違うので、合う指導法、解決法を相談しあっていけることが良いですね。

有香 私とジェイソン、二人とも性格が違って、お互いに無い部分を相手が持っています。厳しいところも緩いところも、お互いがそれぞれ持っている。そのため、色々な選手に対応できることが良いでしょうね。

――コーチとして大切なことは?

ジェイソン 目標、目的をはっきりとさせることです。毎日はとても基本的なことの繰り返して、ともすると何のためにやっているのが見失う。旅の目的地をちゃんと話し合って定めることですね。

有香 全体的にバランス良くトレーニングしていくことが一番大切でしょう。特別なことを教えているわけではなく、これはフィギュアスケートにとって大切だなという感覚的なものを、毎日ちょっとずつ注意して、それが積み重なって選手もできるようになっていくのだと思います。

――ありがとうございました。

<了>

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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