全日本女子、負けられない状況で流れを変えたひとつの決断=バレーW杯
結果を残した若手選手たち、収穫は得たが
下馬評を覆す活躍を見せた江畑。今大会で飛躍を遂げた 【坂本清】
海外でプレーする佐野優子(イトゥサチ/アゼルバイジャン)、狩野舞子(ベジクタシュ/トルコ)を除く代表12選手がV・プレミアリーグに所属する中、江畑だけが1つ下のカテゴリーにあるV・チャレンジリーグでプレーする。
所属先の日立にとっては、江畑ほどの決定力がある選手を擁するのはプラスであるのは間違いない。だが江畑にとって、対ブロック、対レシーブという面で考えれば、トップ選手がそろうプレミアリーグと比べると、高さ、パワー、圧力、技術は劣る。当然、伸び幅も限られるだろうし、国際大会で経験を積みはしたが、それだけ相手にデータも与えた。昨秋ほどの活躍は厳しいのではないか。そんな下馬評があったのも事実だった。
誰より江畑自身がその不安を感じていた。だからこそ、「このままでは決まらない」と大会中にスパイクを打つ際のポイントを変えた。
「今までは(ブロッカーの)中指の先を狙って打っていました。だからブロックを外されると間違いなくアウトになったし、そこから自分が崩れてしまった。今大会では相手ブロッカーが手を外してもボールがコートの奥に入るように。小指の下、手のひらの端っこを狙って打つようにしました」(江畑)
その結果、ブラジル戦では木村に次ぐ18得点、米国戦ではチーム最多の21得点を挙げ勝利に貢献した。
「今までは1本止められたらリズムを取り戻せませんでした。でも今回はたとえ前半は調子が悪くても後半で取り返せるプレーができるようになった。大事なところで信頼してトスを上げてもらう選手になるにはまだまだですが、ちょっとだけ、成長できた気もしています」
代表2年目の江畑が木村の対角として攻撃面で存在感を発揮した。加えて、山本、井上香織(デンソー)と2人のミドルブロッカーが離脱した中で緊急事態を救い、試合を重ねるごとに周囲も驚くほどの成長を遂げた岩坂名奈、期待された守備力だけでなく攻撃面でも一定の評価を得た新鍋理沙(ともに久光製薬)など、若い選手たちの活躍がチームに活力を与えたのは事実だ。
五輪に出場、ではなく勝つために
2012年5月に東京で行われる世界最終予選で五輪出場権獲得を目指す 【坂本清】
たとえ目指すバレーとは異なろうと、「最後の1本」を託され、勝利するために日本のポイントとなる選手は誰か。やはりそれは、木村だった。
キャプテンの荒木絵里香(東レ)が言った。
「苦しい状況ではサオリ(木村)が打たなければならないからこそ、ブロックの枚数を伝えたり、全員でフォローして最後の一本をサオリに打たせる。全員で1点を取りに行って、そこで決めてくれるのがサオリであり、それが日本の形でした」
収穫もあった反面、浮き彫りになった課題もある。
たとえばイタリア戦のように、完膚無きまでに木村が封じられた時、どう打破するのか。もっと細かな部分で言えば、チャンスボールをセッターの竹下が取りに行ってしまったために、佐野が上げる二段トスがスパイカーのヒットポイントよりも低くなり、攻撃チャンスをつぶすことも少なくなかった。
ただこの大会で終わるだけならば、ブラジルに勝った、米国に勝ったと喜んでいればいい。だがこの先には、ロンドン五輪があり、それまでの時間も限られている。
欧州選手権を4位で通過しながらも、ワイルドカード(国際バレーボール連盟推薦国)で出場し、優勝を飾ったイタリアのマッシモ・バルボリーニ監督は、五輪でメダルを獲得するための強化ポイントを問われ、こう答えた。
「すべてのプレーがパーフェクトじゃなければ、五輪は勝てません」
日本も同じ。もはや目標は、五輪に出場することだけではないはずだ。
最後に木村が言った。
「ブラジル、米国にも距離は確実に近づいている。でも今はホームなので、応援してくれる人たちに背中を押してもらった状態で戦うことができる。アウェイで戦う試合でも確実に勝てるようになるには、すべてのプレーを高めることがこれからの課題です」
これが有終の美ではないことを、誰より、選手たちが一番よくわかっている。
<了>