長いトンネルから抜け出したカカ=2年間の苦悩と復活への道のり
ようやく出口を見いだした3年目
10月には代表招集も受けたカカ。故障のため辞退したが、再びチャンスは訪れるかもしれない 【Getty Images】
だが、渦中のカカは常に「自分の意思はレアル残留。この考えが変わったことは一度もない」と主張し続けた。プレシーズンマッチの出場率はわずか39.8%、バルセロナとのスペイン・スーパーカップも出場は第2レグのラスト16分間のみにとどまったものの、彼には信じるべき後ろ盾があった。監督と会長から受けていた言葉である。カカは振り返る。
「昨季終盤のビジャレアル戦後、モリーニョから電話を受けて2人で話したんだ。彼は僕を必要としていると言った後、僕の望みが何なのか聞いてきた。もし移籍したいのならば手助けする、不満を抱いている選手を置いておきたくはないからとね。『ミステル(監督)、僕はここに残りたい』と僕は答えた。その後、今度はペレス会長が来て言った。『監督から君が必要だと言われた。クラブも君の残留を望んでいる。今は我慢だ。移籍市場が開けば君の名前は多くのクラブと関連付けられるだろうが、わたしは君を売るつもりはない』と。だから僕は外で何を言われようと動じることはなかった」
こうして迎えたレアルでの3シーズン目。カカは序盤こそベンチスタートが続いたものの、徐々に存在感を発揮し始める。今季2度目の先発となった6節ラージョ・バジェカーノ戦で6−2の大勝に貢献すると、続くCLのアヤックス戦では1ゴール1アシストと決定的な役割を果たした。ゴール後に珍しく怒りの表情で雄たけびを上げたこの試合後、いつも通りの笑顔に戻ったカカは「もうどこも痛くない。再びサッカーを楽しめるようになってきた」とうれしそうに語った。
そんなカカの復活を確信したか、モリーニョ監督は続くエスパニョル戦、ベティス戦でも連続で彼を先発起用する。カカも出場時間を重ねるうちにキレが増してゆき、10月26日のビジャレアル戦ではほぼ半年ぶりとなる先発フル出場を果たし、1ゴールを挙げて3−0の勝利に貢献した。
マノ・メネーゼス監督からブラジル代表招集の知らせを受けたのはその翌日のことだ。昨年のW杯準々決勝でオランダに敗れて以来、16カ月ぶりとなるセレソン復帰は結局、その後負ったふくらはぎの故障のため辞退することになる。だがメネーゼス監督は「復帰するには良いタイミングだったので残念だが、それがフットボールだ。チャンスはまた訪れる。彼はマドリーで良いプレーを続け、成長している。われわれにとってはそれが一番重要だ」とクラブで好調を維持すれば再びチャンスを与えることを明言している。
「ミランのカカ」に戻れるのか
「ミラン時代のカカに戻れるかどうかと、たくさんの人が聞いてくる。でも僕のモチベーションはそこにある。再び主役になることさ。多くの経験を積んだ今は、ピッチ上で与える権威も増した。最適なタイミングを選択し、仕掛けるべき時とそうでない時の違いが分かるようになった。以前のように1対1を仕掛ける馬力がまだ足りないけど、それを取り戻すべくトレーニングを積んでいる」
10月に『アス』紙が行ったアンケートでは、「再びミランのカカに戻ることができる」との意見が47%を記録した。まだ復活を信じるファンは半数に満たない。だが8割近くのファンが「売却すべき」と考えていた数カ月前と比べれば大きな変化である。
ひざに2度メスを入れ、4月に30歳を迎える彼が全盛期のキレを取り戻せるかどうかと言えば、正直難しいだろう。だが、レアル・マドリーのカカは着実に輝きを増している。この先彼が「ミランのカカ」に戻れるかどうかは分からないが、「レアルのカカ」として成功をつかむ可能性はある。最近の彼のプレーは、そう期待させるだけの印象を見る者に与え始めている。
<了>
文/工藤拓