“テレビ放映権のボスマン裁判”の行方
ポーツマスのパブ経営者がプレミアリーグに勝訴
イングランド・プレミアリーグのテレビ放映権をめぐり、このたびひとつの判決が下された 【Man Utd via Getty Images】
事の発端は6年前にさかのぼる。英国南部のポーツマスでパブを経営しているカレン・マーフィーさんは、ギリシャの衛星テレビ局NOVA(ノバ)のデコーダーとデコーダー・カードを購入し、自分のパブでプレミアリーグの試合を流していた。しかし、これが違法行為としてプレミアリーグから提訴され、8000ポンド(約100万円)近い罰金を科せられた。
本来、英国でプレミアリーグの試合をパブなどで客に見せる場合、月々480ポンド(約6万円)の受信料をスカイスポーツへ支払わなければならない。一方、ノバの受信料は118ポンド(約1万5000円)と4分の1で済んだ。
また、プレミアリーグは基本的に土曜日の試合は15時キックオフとなっており、スタジアムに足を運んでもらうため、原則として国内でのテレビ中継はない。だが、このルールは国外のテレビ局には当てはまらないため、ノバでは午後の試合も放送されていた。
マーフィーさんの言い分は、EU(欧州連合)加盟国の一市民として、EU域内において最も安い視聴料を払って試合を見せることを妨げられるべきではないというものだ。これに対し、プレミアリーグはマーフィーさんの行為が同リーグの知的財産権を侵害するものだと主張した。プレミアリーグは、同リーグの放映権の販売方法は、独占的ライセンスという概念を守る欧州司法裁判所の判例によって保障されているとした。
マーフィーさんはデコーダー・カード及びデコーダーの納入業者であるQCレジャー社と連名で、EU法についての質問を英国高等法院より欧州司法裁判所に付託していた。そして今回、欧州司法裁判所は「自由移動、競争及び著作権の原則に関する質問」への回答として、プレミアリーグの放映権の販売方法はEU法に違反するという判断を下した。
依然として不透明な商用利用
今回の判断で疑う余地なく明らかにされたのは、「個人利用(非商用)」を目的として試合を放映するデコーダーを輸入することは、EU法において合法であるということだ。この判断により、15時〜17時のテレビ中継禁止についても問題視されることだろう。
しかしながら、マーフィーさんの「商用ユーザ」としての運命は、依然として不透明であると言わざるを得ない。今回の欧州司法裁判所による判断の皮肉とも言える論点は、試合の生中継を放映する際、英国のパブは権利者(プレミアリーグ)のロゴ、画像及びテーマソングを流すことにおいて、同権利者の許可を必要とする、としたことである。
権利者の許可を必要とするか否かは、パブの利用するギリシャの放映権契約が家庭用であるか商用であるかで区別されるようだ。マーフィーさんが(非商用ではなく)商用ユーザーとして視聴料を払っていたなら、著作権に関するプレミアリーグの許可は必要とはされなかっただろう。英国高等法院としては、欧州司法裁判所の回答を適切に考慮しなければならない。