“テレビ放映権のボスマン裁判”の行方

ダニエル・ギーイ/Daniel Geey

テレビ放映権契約に与える影響

今回の判決を機にプレミアリーグが今後、放映権の販売方法を変える事態が起こるかもしれない 【写真:ロイター/アフロ】

 欧州司法裁判所の下した判断は大変興味深いが、今回、同裁判所が回答を与えていない点についても注目に値する。

(1)現時点において、プレミアリーグが自らの権利の再契約を余儀なくされることはない。英国高等法院はまず、プレミアリーグの契約内容およびプロセスがEU法に違反するという判決を出し、かつ、著作権に関する問題についても何らかの判決を下さなければならない。

(2)プレミアリーグのクラブが、各クラブレベルで最高入札社に放映権を売るという可能性は存在する。そのような場合、放映権販売に関するルールの変更を認める、少なくとも14クラブの賛成投票が必要となる。

(3)英国高等法院の判決により、プレミアリーグのクラブが欧州リーグ寄りになるということはない。プレミアリーグは英国内において揺るぎない人気を誇っている。

(4)プレミアリーグは放映権料を多かれ少なかれ取り戻すことができるかどうかを決定的に評価することは、現時点においてはできない。なぜなら、放映権を付与された放送局(放送社)とプレミアリーグが契約内容に関して再交渉しなければならないということは、今回の判断では明らかにされていないからだ(ちなみに現行のプレミアリーグの海外向け放映権の契約は2013年までとなっている)。

 明確なのは、放映権を与えられた放送局を通し、プレミアリーグがEU域内においてデコーダーの再販売を制限するのはEU法に違反するということである。そのこと自体が今後、プレミアリーグが放映権の販売方法を変えるという事態を招くかもしれない。というのは、放送局がこれまで収益を上げてきたのは、視聴料を払う視聴者がいればこそだからだ。スカイスポーツやESPNがこれまで通りの膨大な放送権料を払いたくないとなれば、プレミアリーグも方針を改めなければならないであろう。

待たれる英国高等法院の解釈

 今回のケースに携わる弁護士たちの任務は、まず、211段落にも及ぶ欧州司法裁判所の判断を読み切ることだ。それから、同裁判所の回答、とりわけ著作権に関する回答を英国高等法院がどのように解釈するかに焦点は移るだろう。極論を言えば、解釈次第で、マーフィーさんがプレミアリーグの試合を自分のパブで流せるか否かが決まってくる。

 いずれにせよ、プレミアリーグとしても、不測の事態に備えた対応策やさまざまな計画を検討することは間違いない。プレミアリーグのEU域内における収益の大部分(6億ポンド弱=約743億7000万円)は英国のプレミアリーグの視聴料によるもので、プレミアリーグが将来どのようなビジネスモデルを選択するかは、英国市場からいかに最大の利益を上げるかによって決まると言っても過言ではない。

 さらに、上記のプレミアリーグの問題は、チャンピオンズリーグおよびヨーロッパリーグの放映権のEU域内における販売にも多大なる影響を与えることだろう。なぜなら、UEFA(欧州サッカー連盟)の放映権の販売方法はプレミアリーグと似ており、仮に英国高等法院にマーフィーさん勝訴の判決が出るとすれば、UEFAも今後、収益金を最大にする新方法を考え出さなければならなくなるからである。

<了>

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著者プロフィール

ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)

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