全日本女子、チーム力でつかんだ世界王者ブラジル撃破=バレーW杯 自信取り戻す大きな1勝で五輪への夢つなぐ

田中夕子

チームにきっかけをあたえた山口

スタメン起用に応えた山口(右端)が木村と笑顔でハイタッチ 【坂本清】

 ブラジル戦はここまでスタメン出場を続けてきた新鍋理沙(久光製薬)に代わり、ライトに山口舞(岡山)が入る布陣でスタート。真鍋監督が「ミスの少ない選手」と信頼を寄せる山口は、決定打がない代わりに異なるポジションへの対応も器用にこなせる選手である。今大会は昨年までの定位置であったライトではなく、ミドルブロッカーとしての練習を積んで臨んだ。

 初戦のイタリア戦ではスタメン出場を果たしたが、第3セットで岩坂名奈(久光製薬)と交代。以後6試合は岩坂がスタメン出場。山口のチャンスは途絶えたかと思われたが、2次ラウンドを終え、北海道へ場所を移した3次ラウンド前に狩野舞子(ベジクタシュ/トルコ)が腰痛で戦線離脱。再び山口にチャンスが訪れ、今度はライトで起用されることになった。

 「どんな場面でもチャンスがあるのはありがたいです。でも試合ごとに自分がすべき役割は変わる。複雑な思いもありました」

 迎えたブラジル戦。先発出場を命じられた山口に求められたのは、機動力を生かした攻撃。真鍋監督は昨秋の世界選手権、ワールドグランプリでの相性も重視し、「後半からは山口を使おうと思っていた」と言うが、山口にとっては久しぶりのスタメンであり、ミドルの時と違いサーブレシーブもこなさなければならない。
 
 「不安もありました」

 だが、その山口がチームにきっかけを与える突破口となった。木村が言う。
 「ユメさん(=山口)が入ったことで、コンビが増えただけでなく絡みが生まれて、いつもならば相手の1点になってしまうようなポイントでも、うまくかわして、逆に日本のチャンスにしてくれた。そのおかげで勝つことができました」

たかが1勝ではない大きな1勝

ブラジル戦勝利の瞬間、喜びを爆発させる日本の選手たち 【坂本清】

 山口だけでなく、第1セットに23−24と相手のセットポイントでも、竹下佳江(JT)がマリアーネ・ステインブレシェルをブロックし、流れを引き寄せたことも大きい。相手に連続失点を喫した後、レシーブを崩されブロッカーが2枚並ぶ中でアンダーでの二段トスから打ち切らなければ苦しい場面でうまくブロックアウトを取るなど、佐野が言う「何食わぬ顔をして決めてくれた」木村の存在も大きい。

 勝因は決してひとつではない。いくつもの要素が重なって得たブラジル戦での勝因を、選手たちは同じ言葉で表現した。

 「チーム力で勝つことができました」

 ブラジルの調子が悪かったことも勝利につながった大きな要因でもある。だが、この1勝はたかが1勝ではない。

 木村が言った。
 「相手がどこであろうと、勢いを止めずに相手を圧倒したいです」

 8試合を終えて、3位の中国とは勝ち点3差の5位。1つも負けられない厳しい状況であることに変わりはない。だが、自信を取り戻したこの1勝は、大きな勝利になった。

 あきらめる理由などない。残る試合は3つ。目指し続けてきた今大会での3位以内、ロンドン五輪へ向けて。楽しみはまだまだ続く。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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