危機的状況のインテルが抱える問題点=正念場の長友に求められること
今のインテルに求められている“ノーマル・ワン”
ラニエリにとっても両サイドバックをこなせる長友(右)の存在は心強いはず。ベテラン陣のスピードを補う役割も期待される 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】
ラニエリは、モリーニョのカリスマもスポーツ紙の紙面をにぎわすような毒舌も持ち合わせていない。会見でも常に紳士的であり、チーム内外を問わずコミュ二ケーション能力も高い。選手の起用法も戦術も、モリーニョのような大胆さや意外性はない。ガスペリーニやゼーマンのような自分の信じる戦術に固執することもない。良く言えばどの選手にでも合わせられるタイプ、悪く言えば個性がない監督となるが、このタイプの監督こそ今のインテルに求められている。
そのラニエリが就任して最初の試合となったセリエA第5節のボローニャ戦と、続くCLのCSKAモスクワ戦(2試合ともアウエー戦)でインテルは2連勝し、早くも監督交代の効果が表れたように見えた。
実際に試合を見ていても、慣れた4−3−1−2システムでプレーする選手の動きに戸惑いはなく、攻撃のスピードが上がっていた。ディフェンス面でもまだまだ不安定ながら、以前より安定感が増し、カウンター攻撃を食らうシーンも減った。長友も中盤のサイドではなく、左右のサイドバックで起用されたことにより、攻守に積極的なプレーを取り戻した。
ナポリ戦では長友に厳しい評価も
PKのシーンでも、ハムシクのシュートのこぼれ球を押し込んだカンパニャーロは、ハムシクが蹴る前にペナルティーエリアに侵入していたため、本来ならばやり直さなければならなかった。このゴールが入るまで試合を優位に進めていただけに、インテルにとっては痛恨の判定だった。
しかし、その後のインテルはお粗末だった。前半終了間際に負傷したキブーに代わって入った長友が後半12分、ナポリのカウンター攻撃に対し決定的なミスを犯して追加点を許してしまう。この場面、マスカラのパスを受けてゴール前に迫ったマッジョを長友が背中で抑えるようにマークしながら、ボールをGKのジュリオ・セーザルに取らせようとした。マッジョは長友と競り合いながら右足でループシュートを決めたのだが、よりボールと近い位置にいた長友は、蹴り出すことで危険を回避できたはずである。PKでの失点時も、カンパニャーロより一瞬早くペナルティーエリアに入った長友は、先にボールに追いつけただろう。この夜の長友は持ち前のスピードを全く生かせなかったのだ。
試合翌日の討論番組では、あるジャーナリストが「長友は攻撃的だが、守備に関しては能力がない」と酷評していたが、この試合を見ただけなら、そのような評価を受けても仕方がない。イタリアのマスコミは選手を持ち上げるのも早いが、その逆も然りだ。とはいえ、両サイドバックを巧みにこなせる長友は、ラニエリにとっても貴重な存在であるはず。運動能力が落ちてきているベテラン陣をスピードで補えるのも強みだろう。
戦力ダウン、体力的な衰えは紛れもない事実
前半からカターニアのペースで試合は進んだが、インテルが数少ないチャンスをモノにして先制。その後は守勢に回りながらも、老かいな試合運びで相手の攻撃を凌いでいた。
だが、後半に入るとカターニアに一方的に攻められる展開となった。その結果、逆転を許し、4敗目を喫することになった。スナイデルを欠くと、ゲームをうまく作れなくなるということも深刻な問題となっている。来シーズンからイタリアに与えられるCLの出場枠は3つ。このままの状態ではCL出場権どころかヨーロッパリーグ出場権も厳しくなるかもしれない。
もう一度繰り返すが、ラニエリの監督就任は賢明な選択である。選手にとってもやりやすい監督だろう。しかし、昨シーズンまでのインテルと比べて戦力がダウンし、多くの選手が体力的にも衰えてきていることは紛れもない事実である。
<了>