トラブル続きも戦い続けた63周 最後のインディジャパンにかけた佐藤琢磨の想い

吉田知弘

2度の接触で順位上がらず

2度の接触など不運もあり10位に終わったが、積極的に追い抜きを仕掛けるなどらしさを見せた 【撮影:吉田成信】

 迎えた18日の決勝。晴天に恵まれたツインリンクもてぎで、最後のインディジャパンがスタートした。

 11位スタートの琢磨は、スタートで10位にポジションアップ。序盤は9位のマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポーツ)を追いかけ、激しいバトルを繰り広げた。しかし、19周目のヘアピンで、後方を走っていたジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ(コンクエスト・レーシング)と接触してコースアウト。16位まで後退してしまう。

 これで上位入賞のチャンスが少なくなってしまったが、琢磨自身はあきらめていなかった。その後はミスなく順位を上げていく。その走りに各コーナーで応援するファンも、毎周に渡って旗を振って声援を送った。
 レース終盤には他車の脱落もあり7位にまで浮上。ここで接触したマシン撤去のために全区間で追い越し禁止となるフルコースコーションがかけられ、前を走るマシンとの間隔が縮まる。

 実は予選後の記者会見で琢磨は「フルコースコーション後のリスタートを上手く決めれば順位アップのチャンスがある」と語っていた。また、コーション中に最終コーナースタンドを埋め尽くす琢磨応援団の熱い声援に気付いており“みんなが見ている前でオーバーテイクを決めて順位アップを狙いたい”という気持ちもあったという。

 そして、残り3周でのリスタート。オーバーテイク(追い抜き)を試みた琢磨だったが、チームメイトのE・J・ビソと接触。順位を落とし、10位でレースを終えた。

母国レースでファンを魅了

 「ビソとの接触が一番悔しいです。1コーナーでは完璧に彼の前に出ていたのに、外から無理やり被せてきて、自分は行き場を失ってどうすることもできなかった。あの状況だったら、接触を避けるためにも無理に抑え込んでくるべきではない」

 レース後の記者会見に登場した琢磨は、珍しく悔しさを爆発させた。それだけ、今回で最後となるインディジャパンへの思いが強かった。

「レース内容を考えると、完全燃焼できなかった。今日たくさん来てくれたファンの前で、オーバーテイクをして順位を上げたかった。その最大のチャンスが、最後のリスタート。だから、あんな形で終わってしまって、本当に悔しい」

 インディジャパンが今回で最後になる事については、こう続けた。

「来年からインディジャパンがないという実感が全くわかない。今回のロードコースも含めて、施設面、また毎年足を運んでくれるファンの雰囲気も本当に素晴らしいので、おそらく来年以降も続けたいと思っている関係者も多いのではないかと思います。何年かかるか分からないですし、その時まで自分が現役でインディを走っているかも分かりませんが、いつかまた、もてぎにインディが帰ってきてほしい」

 今回、期待されたほどの結果には及ばなかった琢磨だが、結果以上に彼の走りから伝わる“ファイティング・スピリット”は、ファンの心に届いていたのかもしれない。

 夕陽が沈み、暗くなり始めたグランドスタンド裏のメインステージに、最後の挨拶をするために登場した琢磨の目の前には、多くのファンが彼を待っていた。

 そのファンの前で琢磨は語った。

「何度ありがとうと言っても足りないくらい、本当に感謝しています。今日は自分なりに頑張ったけど、ちょっと及ばなかった。いつインディジャパンが復活するか分かりませんが、それまでに自分ももっと成長して、皆さんの前でもっといい走りができるように頑張ります。本当に皆さん応援ありがとうございました」

 こうして、今年で最後となるインディジャパン、そして佐藤琢磨にとっての母国レースは幕を閉じた。

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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