ギラヴァンツ北九州にもたらされた「ヤス革命」=“史上最弱”のチームが見せた急成長の立役者とは?

吉崎エイジーニョ

昨シーズンはわずか1勝の最下位

Jリーグでの監督は初挑戦ながら、三浦監督はチーム改革を成功させている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 J1、J2リーグ共に8月の対戦を終え、秋からの終盤戦を迎える。ここまでの戦いで、ぜひともご注目いただきたいクラブがある。J2で上位を走っているわけでもなければ、思わぬ不調に陥っているわけでもない。昨シーズンからの「成長率」ナンバー1クラブ、ギラヴァンツ北九州だ。
 
 J2昇格初年度だった昨シーズンは36試合を戦い、わずか1勝(12分け23敗)の最下位に終わったクラブだ。年間勝利数、年間勝ち点、連続未勝利試合記録(33試合)は、いずれもJリーグ史上最悪の記録だった。
 
 そんな姿が、今季は一変した。8月27日、ホームに北九州を迎えた湘南ベルマーレの反町康治監督の評。
「この位置にいるのは、だてじゃないなという印象」
 今季は27日の22試合終了時点で10勝5分け7敗、20チーム中7位の大躍進だ。7月には昇格候補のFC東京を、5日には徳島ヴォルティスを撃破し、一時は昇格圏の3位まで勝ち点3に迫るところまで順位を上げた。昨シーズン全体で挙げた勝ち点を、12試合(6月26日)でクリアしたのだから相当な急成長ぶりだ。
 
 チームを劇的に変えた立役者は、今季から就任した三浦泰年監督。Jリーグの舞台では監督初挑戦の46歳が、予想をはるかに超える結果を残している。新監督がもたらした「ヤス革命」とはどのようなものなのか。

チームで初の「全国区」の存在の加入

 年間1勝で終わった昨シーズン、目を覆いたくなるようなゲームがいくつかあった。昨年11月7日、アウエーでヴァンフォーレ甲府に0−6の大敗を喫したゲームでは、J1でもブレーク中のハーフナー マイクにハットトリックも決められた。試合の後日、当時の主力MF佐野裕哉が話していた内容がチーム状況の苦しさを物語っていた。
 
「前のほうの選手はつないでほしいんだけど、後ろの選手がどうしても蹴ってしまう状況になっている」

 昨季、チームは2009年のJFL時代の選手を多く残して開幕に臨んだ。ワールドカップ中断前にも苦戦は続いたが、チームの大崩れは防げていた。守備ラインが我慢強く守り、大量失点を防いでいたからだ。中断期間中にはチームをワンランクアップさせるべく、パスワークのトレーニングに多くの時間を費やした。ところが中断後は、サイドバックに負傷者が続出した影響もあり、試合序盤での失点が続出。ストロングポイントだった守備の踏ん張りが利かなくなると、チームは大きくバランスを失った。4−4−2の布陣で開幕を迎えたが、シーズン後半は3バック、3トップなど布陣も次々と変わる悪循環に陥ってしまった。
 
 苦しみ抜いたJ2昇格1年目を経て、決して資金が潤沢ではないクラブが白羽の矢を立てた新監督が、三浦泰年だった。「長期の任期で、選手育成も託せる人材」(クラブ関係者)が求められた新監督像だったが、なにぶん、三浦はJリーグでの監督経験がなかった。05年にヴィッセル神戸のフロント退団後、06年には静岡県1部リーグの静岡FCのテクニカル・アドバイザーを務めた後、時に解説者活動を行いつつ、東京都内でサッカースクール事業などを展開してきた。
 就任発表後、地元メディアでは「カズの兄が来る」と話題になった。チームで初と言っていい「全国区」の存在の加入だった。一方で、数年後にJ2とJFLの入れ替え戦の実施もうわさされる中、新人監督にクラブを託す点はリスクがあるようにも見えた。
 
 しかし、三浦は厳格さとオープンマインドを持って監督初シーズンに挑み、ここまではチームの改革を成功させている。

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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