国際大会での戦い方を示したユニバ日本代表=傑出した個に頼らず達成した5回目の優勝

飯嶋玲子

大会の滑り出しは良くなかった

ユニバーシアードで3大会ぶりの優勝を飾った日本。しかし頂点への道は決して順調なものではなかった 【写真:Photshot/アフロ】

 2年に一度開催される、“大学生のオリンピック”ユニバーシアード大会。いわゆるFIFA(国際サッカー連盟)管轄の年代別世界大会ではないため、サッカー界的な認知度は低いが、日本はこの大会で過去4回優勝。特に01年、03年、05年には大会史上初の3連覇を果たすなど、“強豪国”としての地位を築いてきた。過去のチームでは、坪井慶介(浦和)、巻誠一郎(東京V)、岩政大樹(鹿島)、長友佑都(インテル)、本田拓也(鹿島)が活躍している。

 前回のセルビア・ベオグラード大会では3位、前々回のタイ・バンコク大会では5位。ここ2大会ほど優勝から遠ざかっていたが、今大会はU−22代表の山村和也を筆頭に、同じくU−22代表の左サイドバック・比嘉佑介、GK増田卓也(以上、流通経済大)、U−21代表に招集された経験を持つ丸山祐市(明治大)、富山貴光(早稲田大)、U−19代表のキャプテンを務めていた六平光成(中央大)ら例年以上にタレントが集結し、3大会ぶりの優勝が期待されていた。

 しかし、大会の滑り出しはお世辞にも良かったとは言えない。グループステージ初戦のガーナ戦は2−2の引き分け。身体能力が高いアフリカのチームとの対戦とはいえ、一度は2−0とリードを広げながら前後半ともに終了間際に失点した。しかも、相手が1人退場になってからの失点に、「ライン際での集中力が切れていた」と、この日はセンターバックとして出場した山村和也も悔やむ結果となった。

 それでもこの結果が、どこか緊張感に欠けていた選手たちに冷水を浴びせたのは事実だろう。「初戦をああいう形で引き分けて、失速するかもしれなかった」(中野雄二総監督)が、第2戦となるカナダ戦では、開始5分に椎名伸志(流通経済大)が先制ゴールを決めて一気に流れに乗ると、宮阪政樹(明治大)、瀬沼優司(筑波大)らが次々とゴールし、富山も2得点をゲット。前半だけで5得点をマークした。オウンゴールで1失点を喫したものの、後半にも湯澤洋介(駒澤大)の1点を加えて6−1と大勝した。

比嘉の離脱は想定外のアクシデントだったが

 だが、この試合で左サイドバックの比嘉が前半38分に負傷で交代。肉離れを悪化させ、残り試合の出場が絶望的となった。ナイターが中心とはいえ、真夏にほぼ中1日という間隔で6連戦を戦うことになるユニバは、終盤になるとどうしても体力勝負となる面がある。中野総監督は、そうしたユニバの大会事情を考慮した上で、当初からレギュラーを固定しない考えでチーム作りをしていた。試合ごとにメンバーやシステムを大きく変え、選手に疲労を蓄積させずに大会を乗り切る。しかし、無尽蔵のスタミナを誇る比嘉だけは「6試合全部出しても大丈夫」と絶対の信頼を寄せていた。その比嘉の離脱は、チームにとって想定外のアクシデントだったに違いない。

 このチームにとって幸いだったのは、登録メンバー20人を本当の意味で“戦力”として起用するため、複数のポジションをこなせる選手を多く選んでいたことだ。カナダ戦で比嘉に代わって入った中里崇宏(流通経済大)は本来ボランチだが、サイドバックでのプレー経験も多い。第3戦のイギリス戦、準々決勝の中国戦では、右サイドバックの大岩一貴を左サイドバックとして起用したが、彼も所属する中央大ではセンターバックでプレーする選手。ユニバでの左サイドバックはぶっつけ本番だったが、ディフェンスラインであればどこのポジションでもプレーできるという安定感で、比嘉の離脱の影響を最小限にとどめた。

 第3戦で、すでにグループステージ突破を決めているイギリスを1−0で下した日本は、D組1位という成績で準々決勝に駒を進めることになった。対戦相手は、ホスト国である中国。3万人近くの観客のほとんどが日本にブーイングを放つというアウエー状態の中、日本は開始2分にDFのこぼれ球を拾った瀬沼が先制ゴールを決める。だが、その後は中国のカウンターを恐れてディフェンスラインからの攻撃がロングキックに終始する展開に。高い位置でボールを奪って仕掛けるという、日本の攻撃がまったく機能しなかった。中盤でのミスも重なり、22分、24分に連続で失点し、あっという間に逆転されてしまう。

 観客の声援を背に勢いに乗ったかのように思えた中国だったが、「中国はここまでの4試合、ほぼ同じメンバーで戦っている。後半、運動量が落ちることは予測していた」(中野総監督)。足の止まってきた中国に対し、前線をかきまわすことのできる河本明人を投入。セットプレーを得ると、57分にはCK、そして79分にはFKから、いずれも河井陽介(慶應大・清水エスパルス入団内定)のボールに河本が頭で合わせて、逆転勝利を収めた。

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著者プロフィール

東京都出身。1980年代、テレビで見たワールドカップで衝撃を受けサッカーファンに。JSL(当時)時代には元日本代表・宮内聡のプレーに心酔。出版社で7年間雑誌編集を勤めたのちフリーとなり、『サッカルチョ』『Football Japan』などの編集に携わる。90年代半ばより大学サッカー関連の記事を執筆。99年からは6大会連続でユニバーシアードを現地取材。2001、03、05年の日本の三連覇を目撃した(たぶん)唯一のライター。有料メールマガジン『飯嶋玲子・大学サッカーメールマガジン』(http://clg.6mag.net/)も配信中

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