国際大会での戦い方を示したユニバ日本代表=傑出した個に頼らず達成した5回目の優勝

飯嶋玲子

準決勝、決勝は余裕の試合運び

U−22代表でもある山村(左)はキーマンだったが、彼に頼らないチームづくりをしたことが優勝の要因となった 【写真:Photshot/アフロ】

 圧倒的なアウエーの中、逆転でベスト4入りを確定させたこの試合が、優勝に至るひとつのヤマ場であったことは間違いない。試合の主導権を握っていたのは中国で、内容的には日本らしい攻撃の形が出せたとは言い難い。それでも「これまで1試合として同じスターティングメンバーを起用しことはない」(中野総監督)ことによる体力的な余裕と、河本や、湯澤といった後半からの“切り札”を確実に機能させて不利な状況を跳ね返す。“国際大会で勝ち切ること”にこだわった中野総監督のチームづくりの成果が、いかんなく発揮されたのがこの試合だった。

 中国戦に比べれば、準決勝のロシア戦も決勝のイギリス戦も、ある程度の余裕を持って戦えたと言えるだろう。両チーム共にカウンターとロングキックによる攻撃を主流とすることもあり、山村をボランチではなく初戦のガーナ戦以来となるセンターバックで起用。守備を強化すると同時に、中国戦で課題となったディフェンスラインのビルドアップを図った。さらには今大会サイドで使われることの多かった六平をトップ下に配置。前線でボールを収めやすくし、高い位置でスムーズに攻撃を仕掛けられる展開を狙った。

 ロシア戦の前半はまだ中国戦での内容を引きずってか、雑なプレーで相手の攻撃を許すシーンも見られた。結果、後半に六平のゴールで先制するも、一度は同点に追いつかれる。しかし、77分にこの大会のラッキーボーイ・河本が勝ち越しのゴールを挙げた後は、試合を支配した。丸山が直接FKを決めて3点目をマークすると、ロスタイムにも椎名の突破から得たPKを丸山が決め、結局4−1で勝利。3大会ぶりの決勝進出を決めた。

 決勝の対戦相手はグループステージで同組だったイギリス。前回の対戦では、ステージ突破を決めていたイギリスがメンバーを落としていたこともあって、再戦といえど警戒が必要だった。だが、いざ試合が始まってみれば、中盤の構成力、攻撃力に歴然とした差があった。日本は前回の対戦で苦戦させられたトップのキーマンへの対応を徹底。攻撃を完ぺきに封じると、29分に裏のスペースに抜けた河本が、六平からのパスを頭で押し込み、3試合連続となるゴールで先制した。58分には、この日は左サイドバックで出場した丸山がPKをゲット。山村がこれを落ち着いて決め、2−0とリードを広げる。その後、日本は危なげない展開で試合をキープ。結局、イギリスにゴールを許すことなく、3大会ぶりとなる5度目の優勝を決めた。

優勝の要因は“山村のチーム”をつくらなかったこと

 U−22代表選手3人を擁した今大会のチームは、確かに歴代のユニバ代表の中でも、かなりの実力を持ったチームであることは間違いない。だが、驚くほど余裕をもって優勝を手にできたのは、「登録メンバー20人全員で戦う。中心選手はいない」という、当初からのチームコンセプトを徹底できたことが大きい。負傷の比嘉を除き、GKを含めた全員が6試合中3試合以上に出場。選手の特性に合わせ、システムも4−3−3、4−4−2、4−2−3−1と試合ごとに変化した。大会中、1人の選手が複数のポジションでプレーすることを前提としたフレキシブルなチーム作りは、これまでのユニバ代表にない考え方だった。

 ともすれば、今大会のユニバ代表は“山村のチーム”と思われがちだ。確かに、6試合中5試合に出場した山村は、このチームのキーマンであることは間違いない。しかし、今大会優勝の要因は“山村のチーム”を作らなかったことにほかならない。「このチームで、自分がサブ組だと思っている選手は1人もいない。誰が出ても同じ力を出せることを目指してきたし、それができる選手を選んだ」(中野総監督)。そのコンセプトを貫いての金メダルという結果は、ユニバでの戦い方としてはもちろん、連戦の続く国際大会での戦い方としても大きな指針となるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

東京都出身。1980年代、テレビで見たワールドカップで衝撃を受けサッカーファンに。JSL(当時)時代には元日本代表・宮内聡のプレーに心酔。出版社で7年間雑誌編集を勤めたのちフリーとなり、『サッカルチョ』『Football Japan』などの編集に携わる。90年代半ばより大学サッカー関連の記事を執筆。99年からは6大会連続でユニバーシアードを現地取材。2001、03、05年の日本の三連覇を目撃した(たぶん)唯一のライター。有料メールマガジン『飯嶋玲子・大学サッカーメールマガジン』(http://clg.6mag.net/)も配信中

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