野村克也の人生哲学「不器用な方が最後は勝つ」
「壁」と呼ばれた男は三冠王になり、名監督へ
1961年の日本シリーズで長嶋茂雄氏(右)と語り合う野村克也氏 【写真は共同】
単純にバットをバンバン素振りしたから明日打てるか、と言ったら、ほとんど打てない。努力を続けて効果が出るのは、もうジワジワジワジワ……、あとの方なんだよ。その年代、年代にやるべきことをやっている人が、結局最後は勝つ。長丁場になったら日頃努力しているやつが勝つ!
――仕事でも趣味でも、あきらめずコツコツと続けるために必要なことは何ですか?
やっぱり興味とか好奇心、モチベーション。そういうものを感じると「頑張ろう」という気になる。
――引退して社会に出たあと「あのとき野村監督が叱ってくれたことの意味が、ようやく分かるようになった」と感謝する元プロ野球選手が多いそうです。
世の中にはいろんな名言があるけど「人間、3人の友を持て」という。これも名言だと思うよ。3人の友……、原理原則を教えてくれる人、師と仰ぐ人、直言してくれる人。この直言してくれる人が、なかなかいない。オレはこの年になって誰もいない! 奥さんだけだ(笑)。
「苦境に立たされたとき、どう感じてどう考えるか」
苦境に立たされたとき、考え方ひとつじゃない? プラス思考になれる人と、マイナス思考になってどんどん深みにハマって落ち込んでいく人。2通りある。
――「プラス思考」はなぜ大切なのでしょうか?
人間は「思考と感情」という2大要素を持っている。そこの使い方だわな。感じるから考える……。やっぱり考え方というものが行動の起点になるじゃない? 思考が人生を決定する。考え方が取り組みになって、それを実行していって、人間がつくられていく。
――プラス思考とマイナス思考。どちらの道を選ぶかによって、人間の中身が変わり、ひいては人生までも変わってしまう……ということでしょうか?
人間はそういう風にみんな平等になっているんだよ。だから苦境に立たされたとき、どう感じてどう考えるか。思考と感情がどう働くか。それだけの勝負や。不器用な人間は苦労するけど、徹してやれば器用な人間より不器用な方が、最後は勝つよ。
人をうらやんで、自分が動かない“言い訳”にしているのはもったいない。「考える」「学ぶ」ことは誰にでも平等にできるからだ。「ワシの辞書に満足・妥協・限定はないんや」と野村さんは言い切る。45歳までプロ野球選手を続け、76歳の今も野球愛は衰えていない。いつまでも挑戦し続ける。最後まで現役にこだわる人だ。そんな“あきらめない”生き方がかっこいい。お手本になる。
<了>
野村克也プロフィール
京都府立峰山高校を卒業後、1954年、プロ野球の南海へテスト生として入団。捕手として活躍。1970年から1977年までプレーイングマネージャーとして監督と捕手を兼務。1973年パ・リーグ優勝。ロッテ、西武へ移籍し1980年に引退。現役時代は1965年に三冠王を獲得。本塁打王9回、打点王7回とタイトルを数多く獲った。
1990年ヤクルト監督に就任。1998年までの9年間でセ・リーグ優勝4回、日本一3回。1999年から3年間阪神監督。2002年秋から2005年まで社会人野球シダックス監督兼GM。2003年都市対抗野球大会準優勝。2006年から4年間楽天監督。現在は楽天名誉監督、野球解説者。