ナダル対フェデラー、“ニュー・クラシック”と題された男子決勝=全仏テニス

内田暁

攻めるフェデラーに守るナダル

第1セット途中でまめの治療をするナダル。この後から本来のプレーを取り戻した 【Getty Images】

 新旧交代を阻んだ末に実現したナダル対フェデラーの頂上決戦は、地元メディアに“ニュー・クラシック”と題された。両者の対戦は過去に24回あり、うちグランドスラムの頂上決戦は7回(ナダルの5勝2敗)を数えている。まさに“クラシック=伝統”と呼ぶにふさわしい顔合わせだが、両者が最後にグランドスラムで対戦したのは、2009年2月の全豪オープンのこと。最近では、やや過去へと置き去りになりかけていた“クラシック=古典”でもあったのだ。
 
 その注目の一戦、立ち上がりは見慣れた展開のようであり、見慣れぬようでもあった。フェデラーはサーブが好調で、積極的にネットに出て仕掛けていく。それはフェデラーの常ではあるが、ナダルにいつもの驚異的なフットワークや、重く深いトップスピンが見られない。本調子に程遠い前年優勝者を尻目に、ジョコビッチ戦の好調を維持するフェデラーが、序盤にリードを奪っていった。

 だが第1セット中盤、ナダルがトレーナーを呼び簡単なマメの治療を受けたあたりから、クレーの王者に本来の動きが戻ってくる。

 先んじて攻めるフェデラーに、守備とカウンターで応じるナダル――。
 いつもの構図ではあるが、球足の遅いクレーコートとなると、守る側に多少の分がある。また、前日夜から早朝にかけ降った雨により、水を含んだ重い土もナダル優位に働いただろうか。安定感を取り戻したナダルに対し、リスクを犯し攻めるフェデラーのプレーは、徐々にリスクの比重に引っ張られていく。ウィナー(相手がボールに触れずに決まったショット)の数はナダル39、フェデラー53に対し、アンフォーストエラー(ミスショット)はナダル27、フェデラー56。数字は時に本質と大きくかけ離れるが、この決勝に限っては、試合のあやを過不足無く表していると言えるだろう。
 スコアはナダルの7−5、7−6(7−3)、5−7、6−1。ビヨン・ボルグに並ぶ史上最多6度目の全仏優勝を果たした瞬間、クレーの王者は両ひざを地面に着き、そのまま前に倒れて勝利の喜びを抱き抱えた。

「自信を無くしていた」と告白したナダル

 25回目の対戦も、やはり両者が互いの持ち味を発揮し、そしてナダルの全仏タイトル獲得という見慣れた結末に帰着した。
 試合後の会見で、両者のプレースタイルの差異について聞かれたフェデラーは、
「いつものことさ。ラファはラファであることにハッピーだろうし、僕はロジャーであることに満足している。だから僕らは、お互い対戦するのが好きなんだと思うよ」と断言する。だからこそ二人は、テニス史上最高のライバルなのだろう。
 だが、このともすると既視感すら漂う風景の内訳は例年とは大きく異なっていた。

「ほかの年に比べ、今大会に挑む僕は自信を無くしていた」
 6つ目のタイトルを手にしたばかりの王者は、そう告白する。喪失しかかっていた自信の原因は、もちろん、急激に力をつけたジョコビッチの存在にある。
 ナダルは今年、ジョコビッチに決勝で4連敗したまま、今大会を迎えていた。ジョコビッチという巨大勢力が割って入ったことにより、盤石であった2強時代は、確実に変革の時を迎えている。その上でのナダル対フェデラーだからこそ、今年の頂上決戦は“ニュー・クラシック”だったのだ。
 
 クラシックへの回帰を果たしつつも、そこから革新的な新時代が生まれる――。
 今大会が多くの観客を魅了したのは、それが男子テニス界のルネッサンスだったからだ。
 
<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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