もろさを克服、自分の演技ができる選手へ=フィギュア・安藤美姫インタビュー

青嶋ひろの

「今回ほど意味のある試合は今までなかった」

いろいろな気持ちを抱えて迎えた、ロシアでの大会開催。「きっと今後もこんな試合はないでしょう」と振り返った 【坂本清】

――特に今回、ロシアが日本の危機に手を差し伸べる形で、世界選手権が無事開催されました。そこで、ロシアに関わりの深い日本人である安藤選手が優勝した。この大会を機会にふたつの国のきずなが深まったような気がしますし、安藤選手の優勝はその象徴であるように思いました。「レクイエム」というプログラムも……

 振付けのニコライ(・モロゾフ)がロシア人、滑った美姫が日本人、ですもんね(笑)。自分でも、こんなことってあるんだな、って驚きました。本当に思いがけないロシア開催でしたが、自分にとって日本もすごく大切な国だけれど、ロシアも「二つ目の母国」って思えるくらい大切な国。すごく思い入れのある場所で滑らせてもらって、ゴールドメダルを獲ることができて……やっぱり振り返ってみると、良かったなあと思います。

――ここまで意義のある優勝、重い経験は、トップ選手といえどなかなかないのではないでしょうか

 はい、もし昨年のオリンピックでメダルが取れていたとしても……今回の世界選手権ほど意味のある試合は今までなかった、と言えると思います。きっと今後もこんな試合はないでしょう。本当に良い場所で、いろいろな意味を持って演技させていただいた。本当に良い経験をさせていただいたんだな、と思います。

心から楽しみ、自分の演技ができるように

――終わってみれば、確かにさまざまなことがあったシーズン。しかし6年ぶりの全日本選手権優勝、4年ぶりの世界選手権優勝など、良い思い出の多いシーズンとなったのでは? 

 そうですね。全日本は「とにかく世界選手権に出ること!」って、いつもと同じ思いで滑りました。とはいえ、長野は初めて全日本で優勝した(2003年)、すごく思い入れのある場所。その同じリンクで優勝できて、やっぱり良かったなあ、と思います。その他の試合もそれぞれ思い出がありますが、ワンシーズン通して大きなミスもなく最後の大きな試合まで終われたこと。調子が悪くても、いつでも自分のやるべき演技ができるようになったこと。その点で、一番成長できたのかな。選手としてまた一歩踏み出せたかな、と思っています。

――体調やメンタル面に左右されず、いつでも「自分の演技」ができるようになった。その成長の理由は、どこにあるのでしょうか?

 スケートを……本当に心から楽しめる方法がみつかったのかもしれません。これまでだったら、緊張感や不安など、そのときの自分の気持ちがリンクの上にまでついてきてしまって、調子が悪かったらそのまま演技も不安定なものになってしまった。でも昨年のオリンピックの後からは、スケートを心から楽しむ、そのために自分をコントロールする方法が、自然に身についたような気がするんです。それが一番の理由かな。やっぱり、2度のオリンピックを経験させていただいたことがすごく大きかった。そしてバンクーバーの後、ひとつ大きく吹っ切れたものがあって、その後のトリノの世界選手権では、お客さんとの本当の一体感を感じながら滑れたんです。滑っていて楽しい、そんな気持ちに心の底からなれた。その気持ちが、伸び伸びした演技につながった。あ、自分はそういうタイプの選手なんだって、やっと気が付いたんですよ(笑)。じゃあなるべくストレスなく、毎日を本当に楽しく過ごすことが、一番じゃないかなって。それが、スケートにもつながっていくんだろうな、と。私の場合は、ですけれど(笑)。

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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