ポルト無敗優勝の快挙に“第二のモリーニョ”あり=王座を取り戻した33歳の青年監督の手腕

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

勝利至上主義と伝統の順守、監督主導へのシフト

4月3日の優勝決定はシーズン最速記録。ポルトの25度目のリーグ優勝は歴史に残る完全優勝になりそうだ 【写真:AP/アフロ】

 それでも、数少ない公式会見から今シーズン、彼の志向したサッカーが見えてくる。
「わたしが理想とするプレースタイル=哲学は、勝利し続けることによって選手とチームに浸透していくと考えている。勝利こそが良薬であり、勝ち続けることが“ポルト”という名前と“アンドレ・ビラス・ボアス”という名前のコンセンサスになるだろう。ポルトにわたしの名前を刻み、このクラブの偉大な歴史の一部を作るのがわたしの野望であり、目標だ」(10年6月4日、監督就任会見)と勝利へ徹底的にこだわる姿勢はシーズンを通して遂行された。

 さらに、「前任者のジェズアルド(・フェレイラ)が構築した4−3−3のポルト伝統のシステムを順守して組織的な戦術を崩すことなく、より守備に重点を置いたシンプルなサッカーを貫けたのが優勝できた要因だったと思う」(11年4月3日、優勝決定後の会見)と、国内では“ポルトシステム”と呼ばれ、今やポルトガル代表も採用している4−3−3のシステムに手を加えなかったことを優勝の要因に挙げている。

 一昨シーズンまでリーガ4連覇を達成したポルトは「選手主導」のチームだったと言ってもいい。センターバックのペドロ・エマニュエルとMFのルチョ・ゴンサレスが「ピッチ上の2人の指揮官」と呼ばれ、選手自身が4−3−3のシステムを確立していった。前監督のフェレイラは選手と首脳陣の潤滑油的な役割を担っていたにすぎない。しかし、今シーズンはテクニカルスタッフを一新し、モリーニョ時代のポルトでもフェレイラ時代のポルトでも主将を務めたペドロ・エマニュエルを参謀役としてアシスタントコーチに据えたのは、「自分の哲学を浸透させる」と明言した「監督主導」のチームへのシフトのシグナルだったと見ていいだろう。

 そんな中、GKコーチのウィル・コートだけを残留させたのは、自分より1つ年上の守護神エウトンにキャプテンマークを託したからだ。気心の知れたGKコーチの下、直近の4連覇を唯一肌で知るブラジル人GKは「監督のアンドレと主将の僕とで一緒にチームをまとめることができた過去最高のシーズンだった。素晴らしい人格者のアンドレのおかげで優勝できた」と優勝決定直後に語っている。

「今シーズンは開幕4試合で決まってしまった(昨季王者のベンフィカが開幕4試合で1勝3敗の最悪の滑り出し)」(ヴィトール・セルパ/『ア・ボーラ』紙編集長)と、最大の仇敵のつまずきがポルト優勝の追い風になったのは確かだろう。もちろん、ゴールを量産するフッキの覚醒(かくせい)やスポルティングをお払い箱になり、タイトルに飢えたジョアン・モウティーニョの中盤でのハイレベルなゲームメーク、11失点(第26節終了時)と驚異の守備力を維持したディフェンスラインといった選手個々の成長があってこそのタイトル奪取である。

 しかしながら、ビラス・ボアスの徹底した「勝利至上主義」と「伝統のシステムを守った監督主導のチームへのシフト」および「それを実現するための首脳陣の人事刷新」が、誰もが予想できなかった無敗優勝につながったのは間違いない。

モリーニョの記録を超える可能性も

 ポルトが敵地リスボンの“クラシコ”(ベンフィカ戦)で優勝を決めたのは、1940年以来、71年ぶりの快挙。残り5試合を残しての優勝は08年以来だが、4月3日での優勝決定はシーズン最速記録である。残り4試合を無敗のままシーズンを終えれば、72−73シーズンのベンフィカ以来のリーガ2度目のシーズン無敗記録達成。そしてこのままゴールを決め続ければ「シーズン全試合得点」の新記録達成と、ポルトの25度目のリーグ優勝は記録ずくめの歴史に残る“完全優勝”としてポルトガル国民の記憶に刻まれることになる。

 最後にもう1つ、残り試合をすべて勝利すれば、ビラス・ボアス自身がアシスタントコーチとして優勝したポルトの、そしてジョゼ・モリーニョの02−03シーズンの最多勝ち点86の記録に並ぶ。当時は1シーズン34試合制だったので、今シーズン30試合で達成できれば、モリーニョの記録を凌駕(りょうが)すると言ってもいい。

 しかし優勝後、「会見以外での個人取材禁止」を解いたビラス・ボアスはスウェーデンメディアの取材に応じ、「わたしとジョゼ・モリーニョはパーソナリティーも性格もとても違っている。彼のような成功を誰かが収めるのは非常に困難なことだ。わたしなんか彼の足元にも及ばない。わたしはたった2つのタイトル(スーペルタッサ=シーズン開幕前に前年度のリーグ王者とカップ戦覇者が対決=とリーグ優勝)を獲得しただけで、彼は18個ものタイトルを獲得している。サッカー界では天文学的な数字だ」とモリーニョとの比較に対して、「意味のないこと」と反論した。

 さらに「わたしは道のりの短い目先の目標しか持っていない。ポルトにいることで十分幸せだし、わたしはポルトで生まれた正真正銘のポルティスタ(ポルトファンの愛称)だ。このクラブがわたしの魂であり、人生のすべて。16歳でこのクラブに来てからわたしにすべてのものを与えてくれた」と33歳の知将は“ポルト愛”を強調する。

 現在、ビラス・ボアスには今シーズンのEL制覇の可能性が残されている。もし達成できれば、やはり2003年にポルトのリーグ優勝とUEFAカップ(ELの前身)優勝の二冠を果たしたモリーニョと同じ道を歩んでいることになる。そして来シーズン、“ビッグイヤー”(CL優勝カップ)を戴冠するようなことになれば、かつて師であったモリーニョの足跡をたどるようにポルトを巣立ち、世界的名将へと名を連ねていくことは間違いないだろう。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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