明暗を分けたミラノ・ダービー=インテルの誤算、長友の課題

ホンマヨシカ

長友は戦術面での理解度が課題か

デルピエロが製作したTシャツを身にまとったベンチの長友(右)とマテラッツィ 【Getty Images】

 試合は、勝利以外に引き分けという選択肢もあるミランが、インテルの出方をうかがうものと思われていた。しかし、予想に反して開始直後から先制攻撃を仕掛けたミランは、開始1分(正確には43秒)でパトがゴールを決めて先制。その後20分ほどは、出はなをくじかれたインテルの選手のプレーが完全に浮き足立っていた。
 インテルはマイコンのペナルティーエリア内でのハンドのファウルを主審が見逃し、九死に一生を得た後、ペースを徐々に取り戻し、ミランゴールを脅かした。だが、アッビアーティのファインセーブに遭ったり、エトーが完全なゴールチャンスをミスするなど、同点ゴールを奪えないまま前半を終了。インテルは前半に3度のゴールチャンスを作り出したが、ミランの好守の切り替えが速いカウンター攻撃と、中盤での数的有利を生かし、相手にスペースを与えないバランスの取れたサッカーが際立っていた。

 後半が始まって9分後、試合の流れを決定する出来事が起こる。ボアテングのスルーパスからフリーで抜け出したパトに対し、後ろからキブーがファウルを仕掛けて倒した。キブーは一発退場となり、インテルは数的不利での戦いを余儀なくされる。それから8分後、ミランは右サイドからアバーテがシュート気味のクロスを上げ、パトがヘッドで合わせて2点差とした。終了間際には80分から途中出場のカッサーノが、サネッティに倒されてPKを獲得。このPKをカッサーノ自身が決め、3−0として試合を終了した。この結果、ミランは首位をキープ。敗れたインテルは翌日ラツィオに勝利したナポリに抜かれ、3位に後退した。

 インテルは3トップを採用したのが裏目に出て、ミランに中盤を制圧されてしまった。しかし、首位奪取を狙って攻撃的布陣を採用したレオナルド監督を責めることはできないだろう。それよりも、パレルモ戦の敗戦から学び、パトとロビーニョのスピードを最大限に生かしたカウンター攻撃の精度を練習で高めてきたアッレグリ監督を褒めるべきだ。
 実際、この夜のミランは、すべてのポジションにおいてインテルを凌駕(りょうが)しており、ディフェンス陣の安定感も際立っていた。特にインテルの数少ない決定的ゴールチャンスをスーパーセーブで防いだGKのアッビアーティ、果敢な攻撃参加だけでなく、ディフェンス面でも成長著しい右サイドのアバーテ、セリエAで最も信頼できるセンターバックであるチアゴ・シウバの3選手が突出していた。

 しかしこの夜、2ゴールを決めたパトと並んで特に素晴らしかったのは、ミランの中盤陣だ。ファン・ボメルは超えることのできない壁のようにディフェンス陣の前に君臨していたし、ボアテングは攻撃面だけではなく、ディフェンス面でも貢献していた。ここ数シーズン、パスを出すタイミングが遅く、ミスを繰り返してブーイングされることの多いセードルフも、この試合では質量共に全盛期のような素晴らしいゲームメークを見せていた。最近は試合でのプレーよりも、ベルルスコーニの娘であるバルバラとの恋愛が話題になっているパトは、今シーズン一番大切な試合で最高のパフォーマンスを披露した。
 インテルはGKジュリオ・セーザルを除く全員が、低調なパフォーマンスに終始した。特に期待を裏切ったのが、今シーズンゴールを量産しているエトーだ。彼が前半の決定的なゴールチャンスを決めていれば、試合の行方は少しは変わっていただろう。

 長友佑都は今回、出場機会が与えられなかった。重要な試合でスタメン起用という信頼を勝ち取るには、戦術理解度などインテルの選手としての経験が不足している感がぬぐえない。試合後、イタリア人ジャーナリストに率直な意見を聞いてみると、「やはりビッグマッチになるほど、経験豊かな選手が起用される。ミランで言うならエマヌエルソンも同様で、長友はスピードもテクニックにおいても良い選手なのだが、戦術面での理解度がまだ浅い。こういう試合でレギュラーとして起用されるのは、まだちょっと難しいと思う」という意見だった。
 その長友は、試合後のミックスゾーンでは「試合に負けたことが残念ですが、これからまた頑張ります」と、言葉少なめに少し涙目で立ち去った。とはいえ、1月に加入したばかり。真価が問われるのはこれからだろう。

イタリアからも差し伸べられる支援

 最後に、東日本大震災で亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、今も被災地で苦しんでおられる多くの方々に心よりお見舞いを申し上げたい。想像を絶する被害に見舞われた今回の東日本大震災の映像は、イタリア人にも大きな衝撃を与えた。個人的なことだが、多くのイタリア人の知り合いが心配して電話を掛けてきてくれたし、それほど親しくないイタリア人からも声をかけられることが多い。

 セリエAに所属する多くの選手も、今回の被害の大きさに衝撃を受けているようだ。インテルのオフィシャルサイトでは、長友の呼び掛けに応じた選手たちによって、被災された人たちを激励するメッセージを映像で紹介している。インテルはチャリティーマッチも計画中だという。
 イタリアサッカー協会は今のところ、特別に支援の計画は立てていないようだ。ただし、ユベントスのデルピエロのように、独自に慈善プロジェクトを立ち上げた選手もいる。イタリアと日本国旗を合わせた図案の上に「友 FOR JAPAN」と書かれたオリジナルTシャツを販売し、売り上げ金を日本赤十字社に寄付すると発表した。

 ミラノ・ダービーにはナポリや柏レイソルでもプレーした元ブラジル代表のアタッカー、カレカがブラジルのテレビ解説者として来場していた。試合後のインタビュールームにカレカを見つけたので、ジーコがブラジルで企画している7日のチャリティーマッチに参加するのか聞いてみた。日本でプレーしたブラジル人選手たちを集めて行われるこの試合に、カレカも参加するつもりでいるとのこと。1人の日本人としてお礼を伝えた。海外の多くの人たちがこのように支援の手を差し伸べてくれることに心から感謝したいと思う。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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