長友のインテル移籍の衝撃と先駆者・中田

ホンマヨシカ

世界一のクラブで日本人・長友がデビュー

スナイデルに代わってピッチに入る長友(右) 【写真:AP/アフロ】

「世界一のクラブでピッチに立った。興奮しています。今日は寝れないです」

 日本のサッカー関係者やファン、さらには現地の関係者たちも驚かせた電撃移籍から6日後、長友佑都は移籍後2戦目となるローマ戦で東洋人では初めてインテルの選手としてピッチに立った。後半30分から出場した長友は、何度か左サイドを突破し、チャンスを作るなど、本拠地サンシーロで上々のプレーを見せ、まずは地元のファンからの支持を獲得することに成功した。

 前節のバーリ戦で左サイドバックを務めたキブーが、相手のアタッカーに右フックを見舞うという暴挙に出て、4試合の出場停止処分が下されたため、ローマ戦では長友のスタメン出場が期待されていたが、対戦相手が強敵ローマということもあり、レオナルド監督はチームの戦術を知り尽くしているサネッティを左サイドバックに起用するという安全策を選んだ。
 試合は開始早々から攻守が一瞬にして切り替わる非常にスペクタクルなものとなった。しかし後半17分のブルディッソの退場で試合の流れが変わり、後半26分にティアゴ・モッタが4−1となるゴールを決めると、試合は決定したかに思えた。
 長友が観衆の温かい拍手に迎えられてピッチに降り立ったのは後半30分、ローマにフリーキックのチャンスが与えられた場面だった。このチャンスからローマは1点を返す。これは長友の横にいたブチニッチが、不意を突いてゴール前に飛び出して決めたもので、長友にとっては何とも不運な滑り出しだった。

 その失点から6分後にもローマがゴールを決めて1点差に迫るという予想外の展開に。勢いづいたローマは数的不利にもかかわらず同点ゴールを狙って果敢に攻撃を仕掛けるが、これがインテルにすきを与える結果となり、長友のスピードを生かした左サイドからの攻撃もあって、インテルが再びペースを取り戻した。
 ピッチに立つ前にレオナルド監督から「守備を怠らずに、どんどん攻め上がれと指示を受けた」長友は一度、左サイドの裏のスペースに抜け出したが、これは惜しくもオフサイド。インテルのピッチ上の監督的存在であるカンビアッソに「オフサイドのタイミングに注意して攻め上がれ」と耳打ちされた後は周囲との呼吸も合い出して、機を見て積極的に飛び出し、サイド奥深くから何度もクロスを供給して観衆を沸かせた。

 試合はそのまま5−3という何とも派手な結果で終了。終盤の数的有利な状況での18分間足らずのプレーではなく、前半の緊迫感あふれる攻防の中での長友のプレーを見てみたい気持ちが残ったが、それは次回の楽しみにとっておくことにしよう。

地元ミラノでの長友の移籍への反応は?

 この試合に際して、何人かのイタリア人ジャーナリストに長友のプレーについての印象を聞いてみた。各人に共通していたのは、長友がチェゼーナや、イタリアでも放映されていたアジアカップで見せたプレーができるなら、インテルでも十分に通用するという評価を受けていることだった。

 では一般のファンはどうか。スタジアムに来ていたインテルのティフォージ(サポーター)にも聞いてみた。長友の試合をほとんど見たことがない人が大半かと思っていたが、意外にも長友の試合、特にアジアカップでのパフォーマンスを知っていたティフォージが少なからずいたことに驚いた。彼らから聞かれたのも「長友は十分インテルで活躍できる能力を持っている」という意見だった。

 翌日の主要スポーツ3紙による長友の評価は、『ガゼッタ・デロ・スポルト』と『トゥット・スポルト』が10点満点の6、『コリエレ・デロ・スポルト』は評価なしだった。
『ガゼッタ』は評価のコメントに「左サイドを自分のものにするための15分間、疲れ気味のカセッティに対して2度の奇襲攻撃を仕掛けた」、『トゥット・スポルト』は「甘酸っぱいデビュー戦。4−2となった失点の場面では、長友がブチニッチをマークしなければならなかった。その後、2度のスピードのある攻め上がりでミスをやわらげた」と書いている。
 プレー時間が短かったために評価を載せなかった『コリエレ・デロ・スポルト』だが、長友が試合後に語った感想や、長友効果でサンシーロに日本人が多かったことなどを記載し、一定の紙面を割いていた。

 よく新聞に眼を通してみると、レオナルド監督は長友がプレーした18分間に触れ「わたしが指示したことを実践していた。大きな可能性を秘めている」と語っている記事があった。恐らく日本人記者からの質問に答えたのだろう。リップサービスも含まれているかもしれないが、レオナルド監督は長友の18分間のプレーにポジティブな印象を持っていることは間違いなさそうだ。
 自宅近所でよく顔を合わせる犬の散歩仲間のイタリア人もそうだ。試合翌日の早朝に顔を合わせると開口一番「長友のプレーを初めて見たけど、あのスピードには驚いた。これからが本当に楽しみだよ」と熱っぽく語っていた。このような一般人にも長友に関心を寄せている人はいるのである。

 イタリア人からすればサブメンバーとして新加入した選手が18分間プレーしただけのことなのだから、試合後の話題に取り上げられなかったとしても不思議ではない。実際に、プレスルームで談笑しているイタリア人記者も、長友のプレーについて言及している記者は残念ながら見当たらなかったし、試合後、レオナルド監督に質問をするイタリアのテレビのコメンテーターからは長友に関する質問はなかった。
 しかし、大きなインパクトは残せなくとも、レオナルド監督をはじめ、ある程度の人間は、長友に関心を持ち、そしてデビュー戦を好意的に受け止めているようだ。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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