村上佳菜子を筆頭に、改めて強さを示した日本女子=フィギュアGPファイナル

青嶋ひろの

表彰台を逃すも持ち味発揮した安藤と鈴木

村上は初のGPファイナルで銅メダルを獲得。中央は優勝したシズニー、左端は2位のコストナー 【坂本清】

「表彰台独占もあるか?」と騒がれる強力な布陣で臨んだグランプリ(GP)ファイナルの女子シングル日本勢。メダルに手が届いたのは3位の村上佳菜子(中京大中京高)ただ一人。しかし特にフリーでの3人の戦い方を見て、「さすが日本女子!」と改めてその強さに納得することができた一戦だった。

 まずはショートプログラム(SP)でふたつの大きなミスをして、思わぬ5位発進となった安藤美姫(トヨタ自動車)。「ちょっとリラックスしすぎました。曲を変更したショート、初めて皆さんに見てもらうことにわくわくしすぎてしまった。フリーはもうちょっといい緊張感を持って滑れたら、と思います」(SP後コメント)。

ショートプログラムでは出遅れたが、フリーでは強さを見せた安藤 【坂本清】

 今シーズンの安藤は、「試合でも、ショーのように楽しんで滑ること。そうすればショーのように試合のお客さんにも楽しんでもらえるはず」という、アフター五輪シーズンらしい目標を立てていた。見る側としても、夏のアイスショーでおなじみとなった「パフォーマー・美姫」の姿を、試合でも見たいところ。しかし試合には試合の緊張感がやはり必要なのだというから難しい。気合いを入れ直したフリーでは、課題のダブルアクセル−トリプルトウを含む7つのジャンプをすべて成功。しかもGPシリーズ3戦連続で、後半に入れた5つのジャンプすべてを成功させるという「ジャンプの美姫」の強さも見せてくれた。
 続く鈴木明子(邦和スポーツランド)は、特に大きなミスはなかったものの、上位選手たちが手堅くまとめる中、ステップのレベル1などが響いてSP4位。一夜明けたフリーでは、「ここからもう順位は落とせない!」という強い気迫がみなぎる演技を見せてくれた。ジャンプの大きなミスは、ダブルになった後半のフリップのみ。大崩れすることなく、切れ味鋭くも情感のこもった動作ひとつひとつで、会場の北京首都体育館を幸福で満たすような「屋根の上のバイオリン弾き」。

 安藤美姫、鈴木明子――日本女子ベテラン勢の相次ぐ好演技は、男子の試合で悔しい思いをした後だけに、圧巻だった。村上佳菜子が急成長した今シーズン、自分たちの戦いはファイナルでは決して終わらないことを、二人とも良く知っているのだ。この後、彼女たちを待つのは、浅田真央(中京大)を交え、世界選手権への出場切符を競う全日本選手権。そこで国内ジャッジから高い評価を得るには、国際試合で結果を残すことが大きな後押しになることも、知っている。そんな大事な試合で、追い詰められながらも二人が見せた、レベルの高いフリー。さすがに、男子の戦いが厳しくなるずっとずっと前から、国内代表権を得るために本気の戦いをしてきた日本の女子シングル、そのなかから選ばれた選手たちだ。安藤、鈴木ともが今、自分が見せるべきものをしっかりわきまえ、現時点で最高の演技をもって、ファイナルを盛り上げてくれたのだ。

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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