村上佳菜子を筆頭に、改めて強さを示した日本女子=フィギュアGPファイナル

青嶋ひろの

軽やかに大舞台を乗り切った村上

GPファイナルという大舞台を笑顔で乗り切った村上 【坂本清】

 そして彼女たちの演技の直後に出てきたのが、SP3位、初出場の高校1年生、村上佳菜子。

 この時点で村上に対して抱いたのは……「もう佳菜子は楽にしていいよ!」そんな気持ちだった。日本の先輩ふたりが、これだけ頑張ったのだ。これで村上が崩れたとしても、日本勢は確実にメダルを手にする。だからシニア1年生の佳菜子は、自分なりに頑張りさえすればいいよ、気楽にこの大舞台を楽しんできて! と。SP3位につけた緊張感で、ボロボロになってしまったっていい。いい経験になるだろうし、安藤、鈴木で満足した観客たちは、「頑張ったね!」と温かい拍手を村上に送るだろう。

 ところが、村上佳菜子は見せてしまったのだ。ファイナルに向け、たっぷりと練習してきたのだろう。スピードは保ったまま、かつ落ち着いた動きから、今や彼女のトレードマークとなったトリプルトウ−トリプルトウをきれいに決める。ジャンプはフリップがシングルになった以外、ほぼパーフェクト。ひとつの大きな失敗があっても、その後に集中力を切らさなかったことも立派だ。そして高いテンションを保ったまま、シニア1年目とは思えないほどの巧みさで、「マスク・オブ・ゾロ」の世界を作り上げていく。
 天性の魅せる技術、最後までパワーを保ち続ける若さもさることながら、体が勝手に美しい動きをこなしてしまうまで、過酷な練習を積んでいることがよく分かる。

「カナはもう、練習嫌いで嫌いで……」
「今年はがんばって、お姉さんたちについていけたらいいな!」
 などととぼけたことを言いながらも、これだけ涼やかに、ほほ笑み絶やさず大舞台を乗り切るためには、圧倒的に質のいい練習が必要だったはずだ。
 笑顔のままに演技を終え、フリーは2位で総合3位。アリッサ・シズニー(米国)、カロリーナ・コストナー(イタリア)と、欧米勢が大健闘したことで、今大会唯一の日本女子メダリストとなった。

世界一厳しい国内大会、全日本選手権に期待

情感のこもった演技で会場を沸かせた鈴木 【坂本清】

 村上佳菜子については、現在さまざまな評価がされているところだろう。

「フィギュアスケートに新しいスターの誕生だ。あの笑顔が日本を明るくしてくれる!」と手放しで歓迎する声もある。
「ジャンプレベルは浅田や安藤にはおよばない。五輪シーズンまで持つかどうかは疑問だ」という冷静な意見もあるだろう。

 確かに彼女がこの後、持ち味である演技力を武器に世界のトップを脅かして行けるのか、今よりも難度の高いジャンプを身につけようと奮闘するのかは分からない。浅田や安藤、キム・ヨナ(韓国)、そして現在ジュニアにいるスーパージャンパーたちの実力にはかなわずに、終わる可能性だってある。
 しかしGPファイナル初出場で3位となった今、確かに言えることがひとつ。村上佳菜子は安藤や鈴木と並び、練習での生真面目さも勝負に立ち向かっていける勇気も持っており、メンタル面では日本女子の系譜に正しく連なる、強い選手の一人だということだ。

 GPファイナル・女子フリー。日本勢のこんな演技を立て続けに見せられて、改めて思った。
 村上、鈴木、安藤……、彼女たちに加え、浅田真央らを交えた全日本選手権は、いったいどんな壮絶な、わくわくした戦いになるだろうか。そして選手たちにとっては、どんなに過酷で残酷な戦いになることだろうか。

「今年の全日本選手権が厳しい? それは毎年のことですよ! 上位みんながいい演技をして、いい試合をしたら、見ている人も面白いと思いますし、そんな試合こそ私たちは望まれていると思う。見る人をわくわくさせる全日本、それを盛り上げる一人として戦えたらと思います。試合が終わった時に、選手みんなで『いい試合だったね』と言い合えるように!」(鈴木)

 世界一厳しい女子シングルの国内戦を戦っていくのは、こんな強い魂の持ち主たち。彼女たちのまっすぐな思いを、ぶつかる火花の美しさを、私たちは心して楽しもう。

<了>

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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