20歳寺田明日香、世界を前に成長し続ける強さ=陸上

高野祐太

持ち合わせる能力の高さとスピード

 寺田の潜在能力は高い。トレーニングメニューの中には、福島よりも良い成績を挙げるものもある。中村監督は常々「能力の7、8割しか使っていない」と語っている。
 現在の100メートルハードルの自己記録は、昨年の日本選手権でマークした13秒05で、12秒台まであと一歩。ハードリングは荒削りだが、ベースとなるスピードは国内の専門スプリンターをしのぐ。最近は100メートルレースをほとんど走っていないからデータがないが、もはや福島以外には負けないとの見方さえある。100メートルの自己記録11秒71は、高校時代に出したもの。そこから11秒中盤にはタイムを短縮していることが想定できるから、ハードルが入ったときの減速分がトップ選手と同じであれば、現在でも世界に迫るタイムが出てもおかしくない。そんな単純計算ができる。実際、そのスピードを評価した4×100メートルリレーへ起用、というかねてからの構想がアジア大会で実現し、アンカーをまかされた予選でライバル中国に抜かさせなかった。
 寺田自身も「ロンドン五輪では(北海道ハイテクACのチームメートである)福島さん、北風(沙織)さんと一緒にリレーを走りたい」と、堂々と宣言した。

 「福島さんだけじゃない」という思いだって、もちろんある。在京テレビ局が福島の特集取材に来た際、オンエアで福島がいかにすばらしいかの比較対象に自分の映像が使われていた。コンチクショーと思った。


 今年1月に20歳になった寺田は、お気に入りの振り袖を着て成人式に臨んでいた。「赤とか白とかがいい。黒もありかな。花とかの古典柄で」とカタログを取り寄せていろいろ思案した結果、黒地のこだわりの一着をゲットした。高価なものだったが、「妹も着られるから」と、レンタルではなくて、貯金をして自分で買った。

 今、大人の階段を上り始めている。今回のアジア大会で感じた緊張感や焦りの裏には、怖いもの知らずの強さはもうない。代わりに、世界の大きさの前に立ち尽くし、目を見開いた20歳の姿がある。畏怖(いふ)の念を知った強さは、いずれ本物になるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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