試合巧者のトヨタ自動車が3度目の優勝=第37回社会人野球日本選手権大会総括

島尻譲

社会人単独チームの日本一を争う大会

2年ぶり3回目の優勝を果たしたトヨタ自動車 【島尻譲】

 社会人野球の大会で真っ先に思い浮かぶのは盛大な夏の都市対抗かもしれないが、秋の日本選手権は単独チーム最強決定戦と呼ばれ、非常に意義があるものとして捉えられている。それは都市対抗は都市対抗出場を逃したチームからの補強選手制度があり、その補強選手の活躍が勝敗を大きく左右するが、日本選手権は完全に“自前のチーム”での戦いになるからだ。
 日本選手権は都市対抗とクラブ選手権の覇者、JABA公認大会(ことしは11大会)の優勝チーム、残りは地区によって割り振られた枠を争って、厳しい予選を勝ち抜いた32チームが出場する。都市対抗、クラブ選手権、JABA公認大会で優勝チームに重複があれば、優勝チームの該当する地区予選で増枠の措置が取られる。なお、ことしはプロ参加の中日が優勝したベーブルース杯で準優勝した西濃運輸の東海地区が増枠された。
 今回の日本選手権(10月30日から11月1日、11月9〜14日・京セラドーム大阪)は夏の都市対抗出場チームの半数近い16チームが出場権を失うという波乱の展開だったが、決勝戦まで勝ち上がったのは近年の全国大会で着実に上位へコマを進める試合巧者のトヨタ自動車とJR九州だった。ことに日本選手権ではトヨタ自動車は07、08年連覇、JR九州は昨年の優勝チームで大会連覇が懸かっていた。

紙一重の決勝を制したトヨタ自動車

「とにかく守りを重視して少ない失点で、相手のミスを得点につなげられるような、ヒットが少なくても効果的な得点を挙げる。そんな野球がしたい」(トヨタ自動車・間瀬啓介監督)
「大会連覇なんて滅相もない。米藤太一、濱野雅慎の二枚看板を中心に、練習でやってきたことをやるだけ。その結果が連覇につながればうれしいですが」(JR九州・吉田博之監督)
 試合前の両チームの監督は、ともに投手陣を軸にした堅実な守りのチームならではのコメント。実際に今大会での1試合平均失点はトヨタ自動車は驚異的な0.8点(数字上は攻撃側が1点を取れば勝てる)。JR九州も、これには及ばないものの2.0点だった。

 しかし、決勝戦ではその堅い守りにほころびが生じた。バント処理のミスで3回に先制を許したトヨタ自動車だったが、4回無死一、二塁で的場寛一(元阪神)のバント処理で相手が悪送球した間に同点に追いつくと、亀谷信吾のセンター犠牲フライで勝ち越した。その後、6回に的場のソロ本塁打、7回に荒波翔(今ドラフト横浜3位)のタイムリー二塁打で突き放した。JR九州も8回に藤島琢哉の2試合連続のソロ本塁打で反撃したが、その直前にハードラックな併殺打(無死一塁でファーストライナーでベースタッチ)という不運。まさに紙一重の差でトヨタ自動車が4対2と決勝戦を制し、2年ぶり3度目の優勝でダイヤモンド旗(優勝旗)をつかみ取ったのだ。

「最高です!社会人野球は喜んでくれる人が近くにいる。本当にやり甲斐がある」
 大会2本塁打、4打点の活躍で打撃賞を受賞した的場のヒーローインタビューが印象的だった。そして、惜しくも準優勝に終わったJR九州の一体感も素晴らしく、ベンチ入りが認められているマスコットガールの徳渕正美さんの常にチームを鼓舞する元気な声援が閉会式で大絶賛されるといった、いい意味で異例の一幕もあった。

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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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