古き良きアルゼンチンを取り戻す=アルゼンチン代表セルヒオ・バティスタ監督インタビュー

ブラジル戦を控えたアルゼンチン代表のトレーニング。バティスタ監督には笑顔も見える 【写真:ロイター/アフロ】

 2010年ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会から約4カ月、紆余(うよ)曲折を経てアルゼンチン代表の監督がようやく決まった。マラドーナ前監督の退任後、暫定監督を務めていたセルヒオ・バティスタ氏の正式就任が11月1日に承認された。08年北京五輪では連覇を成し遂げ、金メダルを獲得。また暫定監督としてA代表を率いた今年9月には、W杯王者スペインを4−1で破り、強烈なインパクトを与えた。その実績は前任者のマラドーナをはるかに上回る。ゆえに、バティスタ監督に焦りの色はなかった。少々時間はかかったが、注目人事は最も妥当な線に落ち着いた。

 バティスタ監督が狙うのは「原点回帰」。ポゼッションを高め、最終ラインからパスをつなぐ、美しいサッカーで勝利を目指す。スペイン代表やバルセロナを引き合いに出しながら、指揮官は臆面もなくこう言ってのける。「昔のアルゼンチンのサッカーを取り戻さなければならない」。当面の目標は、来年自国で開催されるコパ・アメリカ(南米選手権)での優勝だ。タイトルから見放されたアルゼンチンに歓喜をもたらすこと。これが正式監督に課される最初の使命となる。

スペインにお株を奪われたポゼッションサッカーを取り戻す

――このたび正式に2014年ワールドカップ(W杯)まで契約を更新した。アルゼンチン代表監督として承認されると思っていたか

 わたしは楽観的だからね。常々、ユースカテゴリーを率いていた時から北京五輪での金メダル獲得に至るまでの仕事ぶりが評価されるべきだと言ってきた。自分がいい仕事をしてきたことは分かっていたから、監督が決まるまでの間も落ち着いていた。だからこそ、W杯後に3つの親善試合を暫定監督として率いることも引き受けた。この仕事を続けるための可能性をより高めるチャンスだと思ったからだ。

――南アフリカでドイツ相手に惨敗した後、選手たちはどのように映った

 アルゼンチンの選手たちは勝者だ。彼らの顔にはリベンジへの意欲やより良いポジションへの欲求が感じられたし、新しいサイクルにすべてのエネルギーを費やそうとしていた。それに、彼らには十分に競争力があり、誰ひとりとして自らのポジションを失いたくないと思っていた。幸いにも皆が戦う準備ができていたから、あとは選手をそのまま招集するだけだった。

――アルゼンチン代表の目指すサッカーは? 国内では意見が2つに分かれている。セサル・メノッティに近い攻撃的な美しいサッカーを志向するスタイルと、カルロス・ビラルドに代表される結果を求めるサッカーと。あなたはどちらに近い

 これまでのアルゼンチンは、戦ってはいたもののプレーをしていなかった。よく走り、ファイトしているものの、あまりプレーをしていなかったのだ。ボールポゼッションもさほど多くなかった。昔のアルゼンチンのサッカーを取り戻さなければならない。称賛を浴びているスペイン代表になれるわけではないが、今後はボールタッチが多く、ポゼッション率の高いサッカーを実践していく。スペインにお株を奪われたポゼッションサッカーを取り戻すのだ。わたしがチームを率いてからしきりに言っているように、「よりボールを触れば負担が減る」ということだ。

――そうしたポゼッションサッカーの概念を、どのように戦術に落とし込んでいくのか

 わたしはアルゼンチンの古典的なサッカーに回帰させたいと思っている。美しく、忍耐強く、落ち着きがあり、ボールポゼッションの高いサッカー。そのためには、最後尾から攻撃を組み立てなければならない。だからこそ、わたしはサイドバックにスペシャリストを配することから着手したかったのだ。(前監督のマラドーナ時代のように)センターバックをサイドに置くのではなく。それから中盤を厚くし、ボール扱いのうまい選手を起用したい。成功を収めているスペイン代表やバルセロナがやっているようにね。

1/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント