“ドラ1捕手”が挑んだトライアウトに密着
鷹詞2010〜たかことば〜

かつての「城島2世」も5年でクビ

多田野を好リードした荒川(右)。トライアウトで全力を尽くして吉報を待つ
多田野を好リードした荒川(右)。トライアウトで全力を尽くして吉報を待つ【田尻耕太郎】

 現在23歳。5年前のドラフト1位で、当時「城島2世」と有望視された捕手がこのオフに戦力外通告を受けた。福岡ソフトバンク・荒川雄太である。


 2006年に日大高(神奈川)からプロの世界に飛び込んだ。高校通算26本塁打の強打と、二塁送球でコンスタントに1.9秒台をたたき出せる強肩が魅力の好素材として将来を嘱望されていた。しかし、入団から5年間で1軍に上がることは1度もなかった。ただ、捕手は育成に時間のかかるポジションである。プロ3年目の08年にはファーム日本選手権で2打点と好リードの活躍で優秀選手賞に輝くなど、成長の跡をうかがわせた時期もあった。だが、それ以降の2シーズンは伸び悩んだ。特に打撃で苦しんだ。09年と10年の打率はいずれも1割7分9厘。出場試合数も09年は40試合、10年は故障もあって22試合に終わり、2軍でレギュラーをつかむところにすら届かなかった。

 ドラ1の高卒捕手を5年で見切るのは早過ぎるのではないかとの声も聞かれた。しかし、荒川はその現実から目をそらすことなく答えた。

「それは仕方がない。ドラフト1位でも育成選手でもプロのユニホームを着てしまえば、後は同じですから」

 10月1日に戦力外通告を受け、当初はモヤモヤした気持ちが抜けなかったと言う。

「いろいろな思いがあった。結果的に、自分がもっと成長するためにトライアウトを受けて挑戦をしようと思いました。でも、何が正しい選択なのか、すごく迷った時期もありました」

シート打撃では最初の打者「かなり速く見えた」

 11月10日、12球団合同トライアウトが西武ドームで行われた。参加選手は33人。「例年よりも少ない」とある球団の編成担当者は話した。また、特徴として挙げられるのはベテラン選手が多かったことだ。30代以上が半数を超える17人。最年長受験者は千葉ロッテ一筋で23年間もプレーした41歳の堀幸一だ。

 荒川にとって福岡ソフトバンクのユニホームを着て野球をする最後の場。しかし、そんな感慨には浸っていられない。ベンチに張り出されたスケジュール表を見て、まず驚いた。シート打撃の順番が書かれていたのだが、荒川は最初の打者として打席に立つことになっていたのだ。

 トライアウトは、打者は4〜5打席の機会があり、投手は4人に対して投げる。カウントは1−1からスタートするため、たった1球で追い込むことができる投手の方がやや有利な感がある。

 荒川の初打席はあえなく投ゴロに終わる。すぐに巡ってきた第2打席は同じく福岡ソフトバンクから戦力外通告を受けた佐藤誠との対戦だったが、またしても投ゴロに打ち取られた。

「準備はしていたけど、投手の生きた球を見る機会がなかったからかなり速く見えた」

小林雅、多田野らを好リード 運命のトライアウトの結果は…

 しかし、言い訳をしている暇はない。今度はマスクをかぶり投手をリードする。多田野数人(北海道日本ハム)、本柳和也(オリックス)、そして、かつてセーブ王にも輝いた小林雅英(巨人)とバッテリーを組んだ。もちろん急造コンビである。あうんの呼吸などあるはずもないが、打者4人を完ぺきに抑えた多田野は「本当にうまくリードしてくれました。首を振った場面もあったけど、すぐに僕の投げたい球を要求してくれた。ありがたかったです」と荒川への感謝の気持ちを言葉にした。

 プロで5年間培った捕手としての嗅覚(きゅうかく)は決して無駄ではなかった。バットでは残念ながら無安打に終わったが、3打席目の三ゴロと5打席目の二直は紙一重の強い打球で、少なからずアピールはできた。

「自分のやってきたことを出すことはできました。いい準備もできたし、全力でプレーをすることができました」

 荒川をはじめこの日の受験者は、今後1週間をメドに獲得希望球団からの連絡を待つことになる。ネット裏の取材では、ある球団が荒川に興味を示しているとの声が聞かれた。

「やっぱり野球は楽しいですね」

 この1カ月半、チームから離れてのトレーニングはどこかむなしいものだったと言う。また仲間たちと一緒にグラウンドに立って野球をしたい。そう願う33人に、いくつの朗報が訪れるのだろうか。


<了>

田尻耕太郎
田尻耕太郎

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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