ベント監督という賭けに勝ったポルトガル

市之瀬敦

C・ロナウドが2試合連続でゴール

新監督のベント(右)には選手たちからも称賛や信頼の声が上がっている 【写真:アフロ】

 共に3−1というスコアで終わった2試合だが、内容的にはずいぶんと違いが見られた。どちらが良かったかと言えば、8日のデンマーク戦である。消極的な相手のミスを立て続けに2回も突き、わずか2分間で2点を決めたのは痛快の一言。落ち着いて2ゴールを決めたナニのプレーは言うまでもなく、正確なクロスを送ったC・ロナウド、相手選手のミスを誘発するプレッシャーをかけたJ・モティーニョの献身的プレーも評価すべきだろう。試合終盤にCKから不運なオウンゴールを奪われるが、けっして受け身にならず、3点目となるC・ロナウドのゴールで勝利を決定づけたのはチームの成熟を感じさせた。

 初対決となった対アイスランド戦は、開始3分にいきなりC・ロナウドのFKが決まるなど、スコアだけ見れば楽勝に見えるかもしれない。だが、フィジカルを前面に出す相手のシンプルなサッカーに苦しめられた。試合前日の記者会見でアイスランドの監督はリラックスした雰囲気で、「C・ロナウドとナニを止める方法は空港でパスポートを取り上げ入国させないことだよ」とうそぶいたが、なかなかどうしてしたたかであった。
 途中出場のエルデル・ポスティーガが決めた3点目はGKのミスによるものであり、本来ならなかったゴールである。となると、最少得点差の試合となっていたかもしれないのだ。普段よりも守備的な役割を期待されたラウル・メイレレスの強烈なロングシュートが決まって本当に良かった。C・ロナウドやナニと違い、メイレレスはアイスランド守備陣からノーマークであった。

 なお、自己中心的なプレーを批判されることもあるC・ロナウドだが、2試合連続でゴールを決めるだけでなく、90分間攻守にわたって全力を尽くす姿を見て、サポーターもあらためて彼を信頼するようになったはずだ。
 強いて気になる点を挙げれば、デンマーク戦でもアイスランド戦でもセットプレーから失点していること。ポルトガル代表はゾーンで守っているが、修正が必要な部分かもしれない。また、FWの中央に位置するウーゴ・アルメイダがまったく生きていない点も気になる。むしろ途中出場のエルデル・ポスティーガの方がC・ロナウドとナニとの相性がいいように思えるのだ。いずれにしても、ベント監督には来年6月4日のノルウェー戦まで十分に時間が与えられており、慌てる必要はない。

明るい未来の予感

 ポルトガルは予選4試合を終え、勝ち点「7」でグループHの2位につける。3戦3勝、勝ち点「9」で首位を行くノルウェーに追いつくのはかなり困難だが、プレーオフ進出の権利を得る2位は十分に狙える位置まで回復した。何より心強いのは、ベント監督のもと、代表チームに落ち着きと自信が戻り、ポルトガルらしいサッカーを再び見ることができるようになったことである。8カ月近くも間が空いてしまうのが残念なくらいだ。

 当初はモリーニョの代替策というイメージがあったパウロ・ベント監督だが、この2連勝でサポーターの心もがっちりとつかんだ感がある。「オーメン・セルト・ノ・ルガール・セルト」。そんな表現がメディアでしばしば聞かれるようになった。直訳すれば「正しい場所に正しい男」という意味だが、要は、適切な人選が行われたということだ。わたしなら最後に「イ・ナ・オーラ・セルタ」、つまり「グッドタイミングで」と付け加えたいのだが。
 また、ジョアン・ペレイラを代表デビューさせ、さらにジョアン・モティーニョやカルロス・マルティンスの代表復帰もお膳立て。指揮官が代表チームの選択肢を増やすことに成功したことを高く評価する声も聞こえる。

 選手たちの反応を見ると、アイスランド戦を終えて、C・ロナウドはベント監督に関して、「パウロ・ベントはまだ自分のやりたいことを実現するだけの時間がないんだ。でもどの選手のこともよく知っていて、だからいろんなことが簡単になるんだよ。ベントはいい仕事をしている。彼も僕らと同じ幸運を持っていることを願うよ」と述べた。
 また代表の雰囲気については、「代表の雰囲気は素晴らしいよ。ケイロス監督の時はそうではなかったという意味ではないけれど。でも選手はみんな満足しているんだ」と答え、チーム状態の良さを強調した。
 デンマーク戦では2ゴール1アシストと大活躍だったナニも、「パウロ・ベントは変わらないよ。選手をのせてくれるんだ。それが彼の強み。選手を喜ばせてくれる。僕らは満足しているし、この結果を受けてもっと強くなるよ」と新監督を褒めた。

 ケイロス時代は信頼を勝ち取ることができず、W杯に招集されなかったJ・モティーニョも、「(今回の2連勝という成功に)パウロ・ベントは重要な役割を果たした。時間はなかったけれど、やりたいことを選手に伝えることができたんだ」と語り、ベント監督の手腕を高く評価した。
 W杯後、代表引退を表明した選手の1人にバレンシアの右サイドバック・ミゲルがいるが、彼は引退の理由として、「この2年半ほど、自分が評価されていないように感じられていた」と明らかにした。しかし、現在の代表ではみんなが満足しているという。ポルトガル代表は変わったのである。

 一方、マダイール会長は、「パウロ・ベントは代表チームに落ち着きを取り戻した」とたたえ、さらに「パウロ・ベントに賭けたわたしは勝った」と発言したが、これは誰もが思っていること。選手との間に短期間で強いきずなを築き、ポルトガル代表に対する国民の信頼を回復したベント監督。彼が指揮を執る代表チームには明るい未来が待っている。そんな予感がしてきた。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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