ベント監督という賭けに勝ったポルトガル
W杯後の混乱、ケイロスの更迭
10月の2試合で連勝し、ポルトガルはグループH2位にまで浮上した 【写真:AP/アフロ】
サッカー協会から1カ月の指揮停止処分を受け、9月の予選2試合(対キプロスとノルウェー戦)でベンチ入りできないことになった。暑かった8月のポルトガル、メディアはその話題で持ちきりだった。
9月に入ってもなお、ポルトガルは代表監督とサッカー協会が対立したまま。ユーロ(欧州選手権)2012の予選が順調にスタートを切れると予想する者は少なかった。それにしても、クリスティアーノ・ロナウドがけがで欠場したとはいえ、ホームでキプロスに4−4で引き分け、そしてアウエーでノルウェーに0−1で敗れ、勝ち点「1」しか取れなかったのは、大誤算。あまりにふがいない姿に、過去10年間にわたって熱く代表チームをサポートしてきた国民の心が離れていくように思えたのである。
9月9日にケイロス前監督の更迭が決定。後任として白羽の矢が立てられたのは、何とレアル・マドリーで指揮を執るジョゼ・モリーニョだった。確かに3年前の夏、モリーニョはポルトガル代表に危機が訪れたら監督を引き受けてもよいと発言していた。ポルトガルサッカー協会のジルベルト・マダイール会長はその言葉をきっと覚えていたのだろう。マドリーまで足を運び、モリーニョに直談判、そして本人の受諾を得たのだった。この話はレアル・マドリー側の承認を得ることができず、結局はお流れとなったが、ポルトガル代表がいかに危機的状況にあるのかをよく表わしていた。
不安材料ばかりの船出
そうは言っても、10月の予選2試合を目の前にして就任したパウロ・ベント監督が、とてつもなく大きなプレッシャーと不利な状況のもとに置かれていたことは否定できない。9月の予選2試合で挙げた勝ち点は、わずかに「1」のみ。逆に言えば、早くも「勝ち点5」を失ってしまったのだ。また、8日のデンマーク戦と12日のアイスランド戦の前には、わずか3日間で4回の練習しかできなかった。しかも、デンマークには2年前W杯予選で2−3で敗れたという嫌な記憶がある。
不吉なデータはほかにもある。過去25年間を振り返ると、デビュー戦を勝利で飾ったポルトガル代表監督はアントニオ・オリベイラ1人だけなのだ。さらに最も不吉なデータを指摘すれば、予選最初の2試合で勝利がないとき、ポルトガルはこれまでW杯にもユーロにも出場したことがないのである。ベント監督からあらためて主将に任命されたC・ロナウドは、「同じゲームもなければ、同じ予選もない」と強がってみせたものの、デンマーク戦を前に、ポルトガルは不安材料ばかりであった。
短期間の練習で2連勝と結果を出したベント監督
さらに、そこにジョゼ・モリーニョ監督からの援護射撃も加わった。「もしパウロ・ベントがわれわれの監督ならば、彼が代表にとって最高の監督なのだ」。絶対に負けられないなどという消極的な言葉ではなく、絶対に2連勝して勝ち点「6」を上乗せしなければならない状況で、マドリーから送られたメッセージは選手、監督だけでなく、マダイール会長、いやポルトガル国民に大きな力を与えたと言ってよいだろう。監督問題で揺れ続けたポルトガル代表に対する、モリーニョからの最高のメッセージだった。
予選2試合の結果は、どちらも3−1でポルトガルの勝利だった。しかも、2試合ともベント監督はまったく同じ11人を先発で起用した。9月のノルウェー戦と比べ、入れ替わったのは6人。C・ロナウドの復帰はもちろん心強かったが、目を引いたのはスポルティングで好調な右サイドバックのジョアン・ペレイラを代表デビューさせたこと、さらにMFにベンフィカで活躍するカルロス・マルティンスを起用したことである。
特にマルティンスとはかつてスポルティング時代に衝突したことがあるのだが、その彼を信頼したところに、ベント監督の並々ならぬ勝利への意志を感じた。モリーニョは上記のメッセージの中で、「使えるポルトガル人選手の特性に合わせた一貫性のあるチーム作りを期待する」とも述べていたが、ベント監督は過去を問わず、いま使える選手の能力を生かすチームを短期間で作って見せた。なかなかの手腕だと言えよう。