韓国サイドが感じた日本の変化=敵国の証言からザックジャパンを知る

吉崎エイジーニョ

韓国に聞くザックジャパンの「現在地」

韓国は日本の中盤対策を講じたが、長谷部(左)や本田の突破を許すなど、中盤で防ぎ切れなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 ザックジャパンがスタートしたばかりの今、やはり気になるのは「どういうサッカーをするんだろう」「どう変わっていくんだろう」じゃないだろうか?

 取材者自身も、先のアルゼンチン戦から、監督会見を通じてそれを探ってきた。だが、どうも現段階では「様子見」の気配が強いのだ。指揮官からは終始、「選手には自分のプレーを見せてくれと注文した」(アルゼンチン戦後)、「選手がどんなプレーをするのか見守りたい」(韓国戦前)といった主旨の発言が続いた。韓国戦後には「教えたいことは多かったが、時間が足りなかった」とも話している。

 戦術的な言及としては、「縦のボールを入れていくこと」(アルゼンチン戦後)という文脈が出てきた程度。さらに韓国戦の後にはもう少し突っ込んで「無駄な横パスで攻撃の流れを摘まないこと。試合の流れを読んだプレーをしてほしい」とも言った。
 逆に課題としては、韓国戦後には「コンパクトなサッカーができなかった」「サイドチェンジは良かった。より効果的に使えたなら、日本はいいチームになる」と話した程度。「縦への意識」は真新しいものだとしても、残りの課題は戦術上、当たり前の話ではある。けれども、自分たちの「現在地」を知りたい。
 ならば、韓国に聞いてみようというのが今回のリポートの趣旨だ。

 12日の対戦前後に飛び出した、韓国代表新監督チョ・グァンレの日本評が興味深い。11日、前日会見会場にて。
「ワールドカップ(W杯)・南アフリカ後の日本は、中盤でのプレー(パス本数)を減らし、前線にボールを出す攻撃形態が良くなっている」
 そして日韓戦後、ソウルW杯スタジアムにて。
「攻撃のテンポがW杯前よりかなり速くなった。(守備的だった)岡田監督の時代はボールを奪ってもゴールとの距離が遠く、スピーディーな攻撃が少なかった。しかし、今は高い位置でボールを奪えるようになったため、素早い攻撃が見られるようになった」
 いずれも、中盤の構成に関する言及だった。

日本の中盤対策として守備的な布陣に変更

 W杯後の日本代表を外から見る視点としては、耳を傾けるに値するものだ。韓国戦前のコラムでも紹介した通り、チョ・グァンレ新監督は対戦前に2度日本戦を視察した。パラグアイ戦とアルゼンチン戦だ。12日の決戦に向けて、おそらく世界中の誰よりも綿密な研究を続けてきたからだ。

 韓国国内でも冒頭の発言の影響力は強かった。試合前から各メディアは「中盤の主導権争いがポイントになる」と書き立てた。「目利き」の発言だったからだ。チョ・グァンレ監督は現役時代、「コンピューター・リンカー」と呼ばれた異才を放つゲームメーカーだった。小柄ながら、フィジカルも強い、「イヤらしい」タイプの選手。発言の中にも度々「自分は中盤の出身だから」という言葉が飛び出す。それ故、冒頭の発言通り、チョ・グァンレ監督は日本の中盤対策を打った。自チームの中盤に手を加えて宿敵との対戦に臨んだのだ。

 チョ・グァンレ監督が就任後2試合で採用してきたシステムは3−4−3だった。しかし、この日の韓国代表の基本システムは、4−1−4−1。守備ラインを4枚に増やし、センターバックのチョ・ヨンヒョンをボランチに上げた。アンカーの採用だ。中盤を厚くし、より守備的な戦いを志向する布陣変更だった。
 チョ・ヨンヒョンは試合後、自身のポジション変更について監督から与えられた指示を明らかにしている。
「本田と松井を抑えること。特に本田に関しては、マンツーマンに近い形で抑えるように、と」
 カタールのアル・ラーヤンでプレーするチョ・ヨンヒョンは、クラッシャータイプではなく、頭脳派で、正確なフィードが売りの選手だ。南アでもセンターバックのレギュラーとしてプレーした存在を、ほぼぶっつけ本番で別のポジションで起用した。

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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