モリーニョの影と戦うベニテス=ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

刺激的なモリーニョ、穏やかなベニテス

穏やかなベニテスの背後には、常にモリーニョの影がついてまわっている 【Getty Images】

 今シーズンのセリエAカンピオナートは、チャンピオンズリーグ(CL)を含めて3大タイトルを獲得したインテルをはじめとして、ミラン、ユベントス、サンプドリアなど、ローマを除く昨季の上位チームが新監督でシーズンを迎えるという異例のスタートとなった。
 その新監督の中で、一番の注目はモリーニョの後釜としてインテルの監督の座に就いたラファエル・ベニテスだ。バレンシアとリバプールの監督時代に結果を残している経験豊かなベニテス監督といえども、「昨シーズンの夢をもう一度」というインテリスタ(インテルのファン)たちの期待を背負うことは、大きな重圧に違いない。ただし、多くのインテリスタたちは、現実的に考えて昨シーズンの再現が非常に困難なことを理解していることも事実だが……。

 新監督ベニテスについて、日本代表監督に就任したアルベルト・ザッケローニはシーズン前のインタビューで、「偉大な監督だが、シーズン中は常にモリーニョの影と戦わざるを得ないだろう。問題はやり方の相違だ。モリーニョは言葉を巧みに利用したが、ベニテスはピッチの男だ。(ベニテスはチーム内で新たなモチベーションを作り出さなければならないだろうとの質問に対して)達成することは容易ではないだろう」と語っていた。確かに、ベニテスの背後には常にモリーニョの影がついてまわっている。

 その影は、モリーニョが黙っていたとしてもついてくるものだが、饒舌(じょうぜつ)なモリーニョが黙っているはずもないのだからなおさらだ。例えば、モリーニョは8月8日のインタビューで「確かなのは、ベニテスがインテルでわたし以上の成績を達成できないということだ。わたしは13試合を戦ってCLを獲得した。もし、クラブワールドカップ(W杯)でインテルが優勝したとしても、それは彼の勝利ではなく、わたしの勝利である」等々、事あるごとにベニテスに対して挑発的な言葉を発している。

 モリーニョは良くも悪くも刺激的だ。インテルでも刺激を与えて、常に緊張感を持たせていた。ただし、その緊張感は味方を萎縮させるものではなく、奮起させるものだったが……。マスコミに対しても常に刺激を与えていた。ベニテスはモリーニョとは違い、選手に対してもマスコミに対しても穏やかに対応し、それが信頼感、安心感を与えている。

献身的なエトーの不満

 さて、そのベニテスが率いるインテルはカンピオナート第6節を終了し、3勝2分け1敗の勝ち点11の成績で、現在首位に立つラツィオを、ナポリ、ミランとともに2ポイント差で追いかけている。
 昨シーズンのインテルは6試合を終えて4勝1分け1敗、第6節でサンプドリアに敗れて首位から陥落したことをかんがみれば、ほぼ同等の成績を収めていると言えるだろう。今季はW杯・南アフリカ大会の影響から、コンディションが十分でないままにスタートを切った選手が少なからずいたこと、新監督の下での再出発ということを考慮すると、決して悪いスタートとは言えないだろう。

 インテルは昨シーズンまでのように大物選手の獲得はしなかったものの、18歳のコウチーニョや昨季パルマで活躍したビアビアーニら若手のホープを獲得し、バロテッリの放出を除けば主力をすべて残留させた。そのインテルでシーズン前に話題になったのは、エトーの「昨シーズンのようにディフェンスのカバーまでやりたくない。よりアタッカーとしてプレーをしたい」という発言だ。

 確かに昨シーズンのエトーはゴール前での主役をミリートに譲り、サイドアタッカーからDFまでこなす献身的なプレーでチームに貢献していた。そのエトーが、今季はよりアタッカーに徹すると言ったのだ。よって、ベニテスのエトーの起用法を、僕はシーズンオフから興味を持って見守っていた。
 確かに、昨シーズンに比べてアタッカー的な役割をしているが、相変わらず左サイドでの献身的なプレーも健在である。シーズンオフからゴールの量産態勢に入っているが、それはポジションうんぬんよりも、コンディションの良さが原因だと思う。素晴らしい体の切れを見せているエトーは、鋭いドリブルでいとも簡単に相手DFを抜き去ってゴール前に迫り、相手チームの脅威となっている。

 逆に、昨シーズンに見せた驚異的なゴール感覚からは遠く及ばないのがミリートだ。第4節のホームでのバーリ戦(4−0の勝利)では、エトーの素晴らしいアシストもあって2ゴールを決めたが、第5節のローマ戦(0−1で敗戦)では再び沈黙した。
 アトレティコ・マドリーに苦杯をなめたUEFAスーパーカップからローマ戦までの試合を見て、どうしても気に掛かったのは、インテルのボールを持ってからの攻めの遅さだった。開始から20分ほどは素早い展開で攻撃を仕掛けるのだが、その後はオープンスペースを作り出すことができない。仕方なく横へ展開することが多く見られ、逆に相手にカウンターを見舞われて失点することもしばしばだった。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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