モリーニョの影と戦うベニテス=ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

センターFWはエトーかミリートか

モリーニョはその存在自体がスペクタルだった 【Getty Images】

 そのインテルの攻撃に変化が表れたのは、負傷のミリートとパンデフを欠いて戦ったCLグループリーグ第2節、ホームでのブレーメン戦だった。この試合でベニテスはスピードのあるコウチーニョとビアビアーニを左右サイドに起用し、センターFWにエトーを配したフォメーションで挑んだ。システム的にはミリートをセンターに起用し、エトーとパンデフを下がり気味サイドに起用した4−2−3−1と同じである。
 しかし、両サイドと1トップにスピードのあるアタッカーを起用したことにより、スピーディーな縦への展開が可能となったのだ。何人ものレギュラーを欠いていたとはいえ、強敵チームであるブレーメンに4−0で完勝した。

 そしてベニテスは、ブレーメン戦の4日後の10月3日に行われたホームでの第6節ユベントス戦でも、負傷から回復したミリートをベンチに残して、ブレーメン戦と同様の攻撃陣で試合に臨んだ。この試合でもブレーメン戦と同様、インテルはスピーディーな攻撃を繰り広げた。
 しかし、前半30分にビアビアーニが負傷したためミリートと交代し、エトーが左サイドにポジションチェンジした。左サイドに移ったエトーは相変わらずユベントスのDF陣に脅威を与えたが、相手ゴールにより近いセンターFWのポジションからサイドに移ったことで、エトーが相手チームに与える脅威は半減したと言える。そして、観客席から見ていても、エトーがこのポジションに満足していないことがありありとうかがえた。

 今シーズンのインテルの攻撃を1人で担っている感のあるエトーは、ベニテスに自身のセンターFWとしての起用を直訴する可能性もある。そうなると、この2人のアタッカーの起用法から、チーム内に不協和音が生じることになるかもしれない。

モリーニョの存在自体がスペクタル

 最後に一点だけインテル戦を観戦していて物足りなく感じることを記したい。それはモリーニョがいないことだ。僕は以前から、強烈すぎるパーソナリティーの持ち主であるモリーニョより、穏やかに受け答えをする紳士的なベニテスの方に親近感を抱いている。

 しかし、モリーニョがいた昨シーズンなら、試合中にベンチ前で指示を出すモリーニョを注視したり、試合後は必ずといってよいほど監督インタビューを聞いてからスタジアムを後にしていた。
 ところが今シーズンは、試合中にインテルベンチを注視することもなく、試合後の監督インタビューもほとんど聞かずに帰宅するようになった。それほどモリーニョのベンチでの動きや試合後のインタビューは、刺激的で面白いものだった。今思うと、モリーニョのインテルがスペクタルに感じたのは、決して試合内容がスペクタルだったからではない。

 確かに、インテルが相手にリードを許した状況で、モリーニョはチームバランスを度外視してでも超攻撃的なカルチョ(サッカー)で勝利を追い求めた。だが、基本はCLのバルセロナ戦やバイエルン・ミュンヘンとの決勝戦を見ても分かるように、カウンター狙いの手堅いカルチョだった。それでもインテリスタたちを熱狂させたのは、モリーニョの存在自体がスペクタルだったからだ。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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