独自路線を突き進む柏、ポゼッションへのこだわり=高円宮杯 柏U-18 2−4 広島ユース
2年間で11名のプロ選手を輩出
柏U−18はポゼッションスタイルを徹底的に突き詰め、パスサッカーを展開する 【鈴木潤】
特に近年の育成の成果は目覚ましいものがある。2009年には前述の工藤を含む6名、今年は2名という計8選手がトップチームに昇格しており、スペイン3部のCEサバデルでプレーする指宿洋史ら、他クラブへ入団した選手を含めれば、実に2年間で11名もプロ選手を輩出した計算になる。そして何よりも特徴的なのは、独自のポゼッションスタイルを徹底的に突き詰めるスタイルが明確化された点にある。
柏U−18のポゼッションのコンセプトは「絶対にボールを失わない」と「極力ボールを失うリスクを避ける」という2つの点が生命線として存在している。
後方から長いボールを蹴り、一気に全体のラインを押し上げてセカンドボールを拾って高い位置で攻撃を仕掛けることもサッカーでは一手だが、その時にセカンドボールを必ず拾えるとは限らない。つまり、そこにはボールを失うリスクがあるということだ。
もちろん、状況によっては裏を狙うフィードを後方から送るケースもあるのだが、柏では、基本的には必ずセンターバックのビルドアップから始まり、各選手はパスを受け、ボールをさばくために連動した動きでゾーンの間に顔出す。そしてサイドチェンジを織り交ぜながらジワリジワリとラインを押し上げ、ボールを動かしながら相手の陣形に綻びを作り出す。
U−18チームの下平隆宏監督は「単純に考えて、ボールを持っている時間が長い方がチャンスを作り出す可能性は高いし、自分たちが主導権を握った方が楽しい。それをいかに相手のゴールに近い位置でできるか」と語る。
数年後にはアヤックスのようなクラブ組織に
広島ユースに敗れ、16強進出を逃したものの、得点シーンでは“柏らしさ”を見せた 【鈴木潤】
こうした柏のパスサッカーは03年、現在アカデミーダイレクターを務める吉田達磨のU−15コーチ就任に端を発している。吉田は独自の哲学を持ち、当時のU−15チームに質の高いパスサッカーを展開させた。そして彼の作り上げたチームが後にU−18へ上がると、07年のJユースカップと08年のクラブユース選手権で準優勝を成し遂げた。
さらに08年の夏には、スペインのビジャレアルで行われた「ビジャレアル国際ユース」に出場。レアル・マドリーユース、リバプールユースといった欧州名門クラブのユースチームが多数集う中、見事3位に輝くとともに、現在柏のトップチーム所属の仙石廉がMVPを獲得するなど、パスサッカーが好まれるスペインの地で高い評価を得たのである。
2年前まで、柏のトップチームは、前線からのプレスとショートカウンターが代名詞のリアクションのチームだった。今季はネルシーニョ監督の下、ポゼッションスタイルへ移行し、戦術の詳細に違いこそあれ、トップと下部組織とが対照的なサッカーをするのではなく、同じポゼッションという枠に統一されることになった。
数年後、吉田や下平がトップチームの監督・コーチに就任した時に、柏独自のポゼッションスタイルはトップチームにも移植され、おそらくトップから下部組織までが同じスタイルを一貫して展開するアヤックスのようなクラブ組織になるだろう。
しかし課題がないわけではない。柏の下部組織出身でこれまで日本代表に定着した選手は明神ただ1人と言っても過言ではなく、小見幸隆強化本部統括ダイレクターは、タレントの数ではなく、質については「物足りない」という評価を下す。
もちろん、手をこまねいているわけではない。その状況を打破する準備は着々と進められており、以下は小見統括ダイレクターが語った一例である。必ずしも実現されるものではないかもしれないが、例えば海外遠征の交流戦レベルではなく、クラブそのものが海外の名門クラブとの密接な結び付きを持ち、その下部組織へ柏U−18の選手を長期にわたって武者修行に出すといった、海の向こうでの育成なども構想の1つにはあるという。今後はそれがどう展開するのか、注目したい。
「ポゼッション」のスタイルだけでなく、柏の下部組織はさらなる独自の路線を見いだし、今、突き進もうとしている。
<了>
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