スーパースター不在と東高西低=第81回都市対抗野球大会総括

島尻譲

大会を通じて成長した東芝が3年ぶりの歓喜

決して前評判は高くなかったが、大会を通じて成長した東芝が3年ぶり7度目の優勝を飾った 【島尻譲】

 東芝(川崎市)がJR九州(北九州市)に2対0と勝利して3年ぶり7回目の優勝を決めた時、印出順彦監督はナインがマウンド近辺で歓喜する姿を一塁側ダッグアウト前で静かに見守っていた。そして、少し白いものが増えた頭髪を整えながら帽子をかぶり直し、主将・井関雅也と堅い握手を交わす。その時、ようやく柔らかな笑みを浮かべた。
「感無量です。この大会を通じてチームが成長できた」
 そう語るのは3年前の監督就任1年目、ベテラン選手と補強選手の力がかみ合って勝ち取った優勝とは違った形であったし、その翌年は都市対抗出場すら逃してしまうという“天国と地獄”も味わった。そこで世代交代を進めて来たが、一朝一夕で実を結ぶものではない。ことしも神奈川の代表決定戦で敗退して、関東予選へ回った末に都市対抗出場を決めた。それゆえに今大会出場チームで最多の優勝回数(6回)を誇る東芝は優勝候補にも挙げられなかった。あくまでも潜在能力の高いチームという評価でしかなかったのだ。
 しかし、大会が始まると、JX−ENEOSから補強した池辺啓二を4番に据えたことで藤原将太、工藤崇博、松永隆太、安達了一らの若い選手が持ち味である打力を発揮。長打あり、集中打ありで順調に勝ち上がって行った。投手陣も3年目の新垣勇人が150キロ前後の速球を武器にして試合をつくり、JX−ENEOSから補強の左腕・沼尾勲がピンチをしのぐ好リリーフを見せる。そして、これまで実績が皆無に等しかった6年目の藤田卓史が東海理化(豊川市)戦での完封を皮切りに、JFE東日本(千葉市)戦では6回2失点で勝ち投手に。決勝のJR九州戦では3安打完封と、抜群の安定感で大会3勝を挙げて、橋戸賞(大会MVP)を獲得した。

JR九州は持ち前の粘り強さで準優勝

74年ぶりの優勝はならなかったJR九州。準々決勝ではホームスチールで劇的なサヨナラ勝ちを収めた 【島尻譲】

 前身の門司鉄道局以来、74年ぶりの都市対抗制覇を目指したJR九州の持ち味は何と言っても粘り強さ。米藤太一、濱野雅慎の2枚看板で最少失点に切り抜け、競り合いに持ち込むのが必勝パターン。ユニホームの左袖にダイヤモンド旗のエンブレム(日本選手権優勝から1年、着用可)が輝くチームはとにかく接戦に強い。日立製作所(日立市)、トヨタ自動車(豊田市)、三菱重工横浜(横浜市)、NTT東日本(東京都)など優勝候補がひしめき、最も厳しいと言われたトーナメントブロックで準決勝の三菱重工横浜戦(10安打8得点=8対3)以外はすべてロースコア。2回戦の日本通運(さいたま市)戦は延長10回、田村亮のセンター前ヒットで2対1とサヨナラ勝利。続く準々決勝のNTT東日本戦では1点ビハインドの9回に田中マルシオ敬三のレフト前タイムリーで追い付き、さらに1死満塁としてスクイズを敢行するも空振りで万事休すかと思われたが、三塁走者だった代走のスペシャリスト・田中允信がそのままホームに生還。サヨナラホームスチールという劇的勝利で勢いに乗った。
 だが、決勝の東芝戦ではこれまで抑えの濱野が先発で9回2失点と踏ん張ったものの打線が奮わず、選手権、都市対抗連覇の偉業は叶わなかった。

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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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