東海大相模打線を封じた興南バッテリーの“気付き”=タジケンの甲子園リポート2010

田尻賢誉

走塁と中継プレーの精度の低さが目立った今大会

 興南高の圧倒的な強さばかり目立った今大会。一生懸命プレーした選手たちには申し訳ないが、残念ながら、レベルが低い大会だったといわざるをえない。それを表すのが、走塁と中継プレーの精度の低さ。特に単打で二塁から本塁を突く走塁技術のなさはさびしいものだった。毎年の統計から、甲子園における単打で二塁走者がセーフになる基準は7秒未満(打者が打った瞬間のインパクトから本塁を踏むまで)。このタイムがほとんど切れない。計測に成功した選手のうち、6秒9未満をマークしたのは14人だけだった。参考までに、上位のタイムを挙げておく。

山下翼(九州学院)  6秒55(3回戦)
山本英晶(新潟明訓) 6秒56(準々決勝)
山下翼(九州学院) 6秒68(3回戦)
黒木亮太(延岡学園) 6秒68(1回戦・アウト)
田中俊太(東海相模) 6秒72(3回戦)
谷康士朗(報徳学園) 6秒76(3回戦)
下田勇斗(九州学院) 6秒79(3回戦)

 山下の快足が光る。山下はほぼライン上にコースを取り、ベースは直角に近い角度で曲がっていた。リストを見て分かるように6秒8を切るのは俊足が条件になるが、6秒8台なら聖光学院高・星祐太郎、砺波工高・上田祐希、中京大中京・堀井保裕ら俊足タイプでない選手も記録している。練習次第では十分可能な数字だ。もう一度、リード、第二リード、スタート(判断)、コース取りにこだわり練習してほしい。

軽視されている走塁や外野守備にこだわりを

 一方で、先日のコラム(※8月14日「見た目より厄介な甲子園の芝 」)に書いたように外野手の守備(中継プレー、ゴロ捕球)のまずさも目立った。今大会、バックホームで二塁走者がアウトにされたのは以下の例だけ(計測に成功したもののみ、以下同じ)。打球の強さ、打球方向、守備位置により絶対に無理という場合もあるが、少ないといわざるをえない。

黒木亮太(延岡学園) 6秒68(1回戦)
堀井保裕(中京大中京) 6秒82(2回戦)
町屋章吾(新潟明訓) 7秒08(2回戦)
冨高央崇(九州学院)7秒08(1回戦)
目代新(南陽工) 7秒21(1回戦)
木村謙吾(仙台育英) 7秒25(2回戦)
漆原大夢(新潟明訓) 7秒28(3回戦)
浜田竜之祐(鹿児島実) 7秒88(3回戦)

 7秒以内の黒木を刺した大分工高や堀井を刺した早稲田実高の守備は見事だが、なんといっても情けないのは7秒2以上の走者が17人もセーフになっていること。外野のゴロ捕球のまずさ、中継プレーの精度の低さが如実に表れている。7秒5以上かかる失敗走塁をしながらセーフになっている走者もこれだけいる。

田中太一 (大分工) 7秒60(1回戦)
谷井竜太 (水城) 7秒56(2回戦)
小野瀬大勝(水城) 7秒55(2回戦)
柿沼陽亮(早稲田実) 7秒55(3回戦)
伊藤慎二 (関東一) 7秒51(2回戦)

 ノックで外野から本塁に返球するタイムを計れば、ほとんどが6秒5程度におさまるはず。実戦でさまざまな要素が加わり、多少遅くなったとしても、1秒以上遅れるのは問題があるからだろう。練習が足りないか、意識が低いといわざるをえない。
 近年は打つ力、投げる力などは技術面を含めて飛躍的に向上している。だが、そこばかりに目がいって走塁や外野守備が軽視されているように感じる。いまだに練習はノックと打撃練習のみという学校があるが、走塁、外野守備ともに練習すれば確実に向上する部分。指導者、選手ともに高い意識を持ち、こだわって練習してもらいたい。興南高が打力で圧倒し、打撃に目がいきがちになる今こそ、走塁にこだわる。それを刺す外野守備にこだわる。来年の甲子園では、そんなチームが現れることを待っています。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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