東海大相模打線を封じた興南バッテリーの“気付き”=タジケンの甲子園リポート2010

田尻賢誉

ストレート中心から変化球中心に配球をチェンジ

 恐れ入った。
 興南高・島袋洋奨、山川大輔のバッテリーには完全に脱帽だ。あれだけストレートにこだわっていたのが、決勝の東海大相模高戦では、準決勝までと全く配球を変えたからだ。準決勝までの5試合の島袋の結果球(1人の打者に投げた最後の球、犠打は除く)は以下の通りだ。

・1回戦:鳴門高 
ストレート:18打数4安打 変化球:7打数1安打 合計:25打数5安打 三振=直球:6/変化球:1
・2回戦:明徳義塾高
ストレート:16打数6安打 変化球:19打数2安打 合計:35打数8安打 三振=直球:7/変化球:5
・3回戦:仙台育英高
ストレート:23打数4安打 変化球:9打数2安打 合計:32打数6安打 三振=直球:7/変化球:3
・準々決勝:聖光学院高
ストレート:17打数4安打 変化球:15打数5安打 合計:32打数9安打 三振=直球:4/変化球:4
・準決勝:報徳学園高
ストレート:26打数6安打 変化球:7打数4安打 合計:33打数10安打 三振=直球:11/変化球:1

 ストレートを狙われて二度エンドランを決められた明徳義塾高、ストレートを打たれて3点を先制された聖光学院高戦は変化球勝負に切り替えているが、ほとんどがストレート勝負。報徳学園高戦はストレートで三振11個を奪っている。
 ところが、東海大相模高戦では、がらりと変わった。

決 勝:東海大相模高
・ストレート:12打数4安打 変化球:20打数5安打 合計:32打数9安打 三振=直球:2/変化球:2

左投手の変化球に弱かった東海大相模打線

 ストレートに頼らず、明らかに変化球を増やしている。島袋本来のスタイルとは異なるが、これが東海大相模高打線には有効だった。準決勝までの4試合でチーム打率3割5分7厘を記録し、強打と言われていた東海大相模高打線だったが、実は明らかな弱点があった。基本的にストレート待ちでストレートを打つタイミングでスイングする打者ばかり。打者は1球ごとに完全に球種を絞って振ってくるが、それでも変化球にはもろさを見せていた。東海大相模高打線の準決勝までの球種別成績は以下の通りだ(犠飛を含む。犠打は除く)。
・2回戦:水城高
ストレート:26打数14安打 変化球:14打数1安打 合計:40打数15安打
・3回戦: 土岐商高
ストレート:13打数4安打 変化球:15打数2安打 合計:28打数6安打
・準々決勝:九州学院高
ストレート:14打数6安打 変化球:24打数5安打 合計:38打数11安打
・準決勝:成田高
ストレート:22打数12安打 変化球:18打数7安打 合計:40打数19安打

 注目したいのが、水城高、土岐商高戦で変化球をほとんど打てていないこと。水城高の大川将史、土岐商高の前田拓磨、矢田純規はいずれも左腕投手。つまり、相模打線は左の変化球は打てていないのだ。その意味で、変化球中心にした興南高バッテリーは正解だった。
 準決勝から一転、なぜあれだけ変化球を増やしたのか。捕手の山川はこう説明する。
「相模は真っすぐ一本待ちのような感じがしました。足を上げて(真っすぐのタイミングで)リズムを取る感じだったので、真ん中付近でも、ストレートみたいな軌道でツーシームを低めに集めればゴロを打たせられると思いました」
 初回の渡辺勝の安打、2回の染谷雄太郎のセンターライナーといい当たりはいずれもストレート。それも、山川が気付く要因になった。
「ビデオでは変化球に対応してる感じでしたけど、実際に見て、真っすぐでタイミングを取っていると思いました。洋奨のツーシームならゴロを打たせられるなと」
 三振を捨て、変化球を丁寧に低めに集められた時点で相模打線が島袋を攻略するのは不可能。春夏連覇にふさわしい興南高バッテリーの“気付き力”の勝利だった。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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