連覇達成に島袋が必要なもの=タジケンの甲子園リポート2010
外角の制球に絶対の自信
ずっとそう思っていた。センバツで日大三高や帝京高相手にこれでもかというぐらい投げ込んだ宝刀・左打者への内角ストレート。それが、ほとんど見られない。この夏の興南高・島袋洋奨が投げるのは外角ストレートばかりだった。
「アウトコースの真っすぐがパターン。それを狙ってました」
聖光学院高の斎藤英哉の言葉を借りるまでもなく、左打者は踏み込んで外角ストレートを狙う。聖光学院高が3点を先制するきっかけとなった遠藤雅洋の二塁打も、その球を狙い打ったものだった。
報徳学園高との試合でも、その傾向は変わらない。2回2死満塁の場面。初回に先制打を許している左打者の中島一夢に対し、島袋は外角ストレート一本。1球ボールの後、2球目は145キロで空振り、3球目は144キロでファール、4球目も144キロでファール。そして、5球目。高めに浮いた145キロを左中間へ三塁打されて3点を失った。 なぜ、ストレートにこだわるのか。ひとつには、こんな理由がある。
「どのチームも真っすぐを狙っているのは分かってますけど、ランナーを出さない限り、配球がバレてても抑える自信はあります」(島袋)
だが、このときは満塁。なぜストレートだったのか。捕手の山川大輔はこう説明する。
「スライダーも考えましたけど、満塁だし、ポテンヒットでも2点入る。まっすぐで力勝負しかないと思いました」
では、なぜ外角一辺倒なのか。なぜ、センバツのように内角に投げないのか。
「外からリズムをつくるという考えがあるんです。洋奨本人も『外の方が投げやすい。腕が振れる』と言うので。投げやすいところでカウントを取ろうというのと、外でファールを打たせてリズムをつくりたいというのがあります。満塁とか、瀬戸際もあのコースですね。(内角は)少しでも甘く入るとホームランもある。失投の確率が高くなってるので」(山川)
外角の制球には絶対の自信がある。シュート回転して中に入ることもなければ、逆球で内角に行くこともない。だから、外角なのだ。
ほかの左投手とは違う内角のストレート
このまま外角一辺倒でいくのか。最終回、ヤマ場がやってきた。1死から谷康士朗にライト前ヒットを許し、迎えるは2本のタイムリーを打たれている中島。島袋は、初球に変化球が抜けると腹を決めた。三塁側スタンドの「ヨースケ」コールに後押しされるかのように、外角ストレートを連投。141キロでファール、142キロでファールさせて追い込むと、カウント2−2からの5球目は143キロのボール球を振らせて三振を奪った(この間に一塁走者が盗塁。捕手の二塁送球が悪送球となり、三塁進塁)。
なおも2死三塁で、打席には四番の越井勇樹。越井にも外角ストレートを2球続けて1−1。ここで、山川が動いた。内角にストレートを要求したのだ。空振りで1ボール2ストライク。4球目は外角ストレートでボールとなるが、5球目。再び山川は内角に構える。この試合の159球目、最後の1球は内角ストレート。越井のバットは空を切り、興南高が春夏連覇に王手をかけた。
最後の最後で、ようやく投げた内角ストレート。その意図を山川はこう説明する。
「(2回に)外角は少しバットに当てられる感じがありました。真ん中から内寄りなら詰まると思った。(ストレートにしたのは)タイムリーを打たれたのはスライダーだったので、変化球に合ってるなと」
これを待っていた。これが島袋なのだ。プレートの三塁側を踏んでいるため、島袋の左打者への内角ストレートは角度がある。ほかの左投手とはキレも見え方も違うのだ。この球があってこそ、外角のストレートも生きてくる。
勝負球にしなくてもいい。むしろ、ボール球でいい。たった1球、この球を見せるだけで自慢の外角ストレートの威力は倍増する。
0対6からひっくり返した1998年の横浜高と同様、準決勝で5点差からの大逆転劇を演じた興南高。12年ぶり6校目の偉業は目前だ。
大記録達成へ。内を突け、ヨウスケ。
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