テクノロジー判定時代の到来?=「ダニエルG」のサッカー法律講座
ランパードの「幻のゴール」で物議
ランパードのシュートはゴールラインを越えていたが、ノーゴールの判定。テクノロジー導入再検討のきっかけとなった 【写真:ロイター/アフロ】
これはワールドカップ(W杯)南アフリカ大会・決勝トーナメント1回戦のドイツ対イングランド戦、前半38分にフランク・ランパードがシュートを放った瞬間の英BBC解説者ガイ・モウブレイの言葉である。
イングランド代表のお粗末なプレーと首をかしげるような戦術はさておき、W杯・南アフリカ大会は全体的には成功を収めた。しかし、誤審とされる判定がクローズアップされたのも事実だ。中でも物議を醸したのが、前述のランパードによる「幻のゴール」である。これを、44年前の1966年W杯の決勝で、イングランドのジェフ・ハーストが「疑惑のゴール」を決めてドイツを破り、優勝を果たした因縁とするコメンテーターもいる。
FIFA(国際サッカー連盟)のジョセフ・ブラッター会長は試合後、イングランド代表に謝罪し、「10月の国際サッカー評議会(IFAB)の会合ではゴールラインテクノロジーの問題を再検討する必要があることを今回の誤審で確信した」と述べた。
これまで幾度となく繰り返されてきたテクノロジー導入に関する論議の争点は3つある。1つ目は、テクノロジーの導入によりサッカーの面白みが半減するのではないか。2つ目は、テクノロジーの導入はある特定の判定に限定すべきではないか。3つ目は、人間による誤審もサッカーの魅力の1つではないか、ということだ。
テクノロジー判定の範囲はどこまで?
しかし問題は、誤審判定であることが明らかな場合でも、FIFAの現行のルールにおいて、ビデオテクノロジーを判定基準とすることが認められていないということであった。当然この判定はメキシコ代表、ファンたちの怒りを買う結果となった。
解決すべき問題は、テクノロジー判定の範囲をどう設定するか、である。ウェールズサッカー協会の事務総長ジョナサン・フォードは、「テクノロジー判定をゲーム全体に導入することには賛成できない。ゴールライン判定で導入してしまえば、一体どこまで範囲を広げればいいんだ」と疑問を投げ掛ける。
テベスのゴールは間違いなくオフサイドであり、同様にランパードのシュートもゴールラインを越えていた。しかしW杯以降、FIFAのスタンスはテクノロジーによりオフサイド判定を変更すべきではないが、ゴールラインの判定は別というものだ。ゴールラインとオフサイドラインの判定を区別する理由は、テクノロジーがゴールライン判定の正確さを解析するのに最も適していることにある。
「Hawk-Eye(ホークアイ=審判補助システム)」の共同開発者ポール・ホーキンス博士は、「試合中、最も決定的なのがゴールラインに関する判定である。問題があれば、(審判補助システムを通して)0.5秒以内に正確な判定が審判員に届く。これがゴールラインとほかの判定との大きな違いだ。審判員はゴールラインテクノロジーを必要としている。テクノロジーは審判員を補助するもので、彼らの代替となるものではない」と語る。
現在、FIFAによりテクノロジーが導入されるとすれば(あくまでも仮定であるが)、その導入の範囲はゴールライン判定に限定されると考えられる。
導入にかかる費用の問題
しかしながら、設置費用はテクノロジー全体にかかる費用のごく一部であり、そのテクノロジー全体の費用を誰が負担するかは明確にされていない。国際サッカー評議会の決定に対し、今回のW杯でFIFAが17億ポンド(約2272億円)の利益を上げたことを指摘し、費用価格が問題ではないと批判する識者もいる。
さらには、世界各国の全リーグでテクノロジー導入が可能かどうかという問題も残る。資金の乏しいリーグは(設置費用が無料であっても)財政的な余裕がないことから、テクノロジー導入はトップリーグに限られることが危惧(きぐ)される。そうなると、資金を「持つ」リーグと「持たない」リーグによるテクノロジーの二層化が生じかねない。