テクノロジー判定時代の到来?=「ダニエルG」のサッカー法律講座

代替案は2名の追加副審制度か

昨季のELではゴールラインに追加副審2名を試験的に配置。しかし、その後の調査では70%のクラブが反対した 【Bongarts/Getty Images】

 審判員による誤審をサッカーの魅力と考える風潮もある。
 FIFAのブラッタ―会長は語る。
「どんなテクノロジーを用いようと、結局判断を下すのは人間である。だとすれば、どうして審判員の責任を他者に譲らなければならないのか」

 ブラッタ―会長の論点はある意味で興味深い。審判員の判定は100%正確でなければならないのか。人間の誤審がサッカーの魅力でもあり、物議を呼ぶような判定を実際、人々は楽しんでいるのではないか。人間誰しも間違いは犯すものだ。間違ったフォーメーションをコーチが指示したり、選手がPKを失敗したり……。
 ただし、ボールがゴールラインを越えたかどうかという判定には、最大の公平公正さが要求される。この点において、多くのコメンテーターが、審判員が正しい判定を行うためには補助が認められるべきであり、そのために試合が2、3回多く中断されるのはやむを得ない犠牲だと主張する。

 テクノロジーに代わる方法として、FIFAは2名の追加副審制度の導入を積極的に検討している。UEFA(欧州サッカー連盟)のヨーロッパリーグ(EL)では昨シーズン、6ヤードボックス(ゴールエリア)近くのゴールラインに追加副審2名を試験的に配置した。W杯でドイツ対イングランド戦の「ゴールライン事件」が起こる前までは、FIFAはこの追加副審制度の方に好意的であったが、今はテクノロジー判定に傾いていると言われている。

他のスポーツではテクノロジー導入が進む

 近年、ほかのスポーツではテクノロジー判定が多く使用されており、テニスでは2つの異なるシステムが導入されている。MacCAMとホークアイである(前者より後者の方が知られている)。これらのテクノロジーでは、コートに備え付けられた数台のカメラがボールを追い、その軌道を精密に解析することができる。選手は1セットに3回まで(タイブレークでは4回)テクノロジー判定を要求することができる。英国のラグビーリーグやNBAでもショットクロックの時間制限内にシュートが放たれたどうかを判定するために、ビデオ判定を用いることができる。

 もともと、これらのスポーツでは試合中「ストップ」と「スタート」が繰り返されるが、サッカーは中断のない断続的なスポーツであり、その大きな違いが多くのサッカーファンを魅了してきた。サッカーの場合、テクノロジー判定の過程でのいかなる中断も、ゲームの進展に多大な影響を与えることだろう。仮に、FIFAがルール改正に踏み切りゴールラインテクノロジーを導入したとしても、そこには瞬時の判定が求められることになる。

評議会の決定は選手たちの意に反する

 ゴールラインテクノロジーの話題が再燃している現在、いまだに疑惑の残る判定も、当時テクノロジーが導入されていれば解決できたであろうと想像できる。記憶に新しいのは、以下の2つの判定か。

・2005年プレミアリーグ:マンチェスター・ユナイテッド対トッテナム戦で、ロイ・キャロルがペドロ・メンデスのシュートしたボールを「かき出して」ノーゴールとなった判定。
・2005年チャンピオンズリーグ(CL)準決勝のリバプール対チェルシー戦におけるルイス・ガルシアの決勝点。

 国際プロフットボール選手協会(FIFPro)が昨シーズン、ELに参加したクラブを対象に行った最近の調査によると、70%のクラブが追加副審制度に反対する中、90%のクラブがゴールラインテクノロジーの導入に賛成であることが分かった。
 同協会の技術委員会秘書であるティジス・タマーズは、国際サッカー評議会のゴールラインテクノロジー導入反対の決定は「受け入れ難い」としている。同評議会の(7月の)決定は選手たちの意に反したものであり、残念なことに、CL、AFC(アジアサッカー連盟)プレジデンツカップ、フランス・リーグカップ、UEFAスーパーカップの試合、ならびにブラジルとメキシコの国内試合で、2名の追加副審制度を試みることが決まった。

 来る10月の国際サッカー評議会の会合で、審判員を補助するテクノロジー導入の提案が可決されるかどうか。今、世界のサッカーファンや選手、コーチ、審判員の注目が集まっている。

<了>

チャリティー・ゲーム

フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)が支援する「フットボール・エイド(Football Aid)」は、糖尿病リサーチと糖尿病患者のサポートのために募金活動を続ける慈善団体。コンセプトはシンプルで、サッカーファンなら誰もが夢見る、本物の試合の醍醐味(だいごみ)を体験してもらおうというもの。「フットボール・エイド」が運営するチャリティー・ゲームに参加することで、オールド・トラフォードやアンフィールドといった世界トップクラスのホームグラウンドで、サポートするチームのユニホームを着て90分間サッカーを楽しむ、そんな夢を実現できる可能性も。「Live The Dream」プロジェクトに興味のある方は、『www.footballaid.com』まで

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著者プロフィール

ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)

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