香川真司、ドイツ経由で目指すブラジルW杯=サポートメンバーとして臨んだ南アフリカ大会を経て
サポートメンバーとしてのつらい日々
W杯・南ア大会はサポートメンバーとして日本代表チームに帯同した香川(中央左)。悔しい思いを味わった 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】
「気持ちは毎日揺れています。つらいと言えばつらいし、つらくない日もある。モリ(森本貴幸)なんかもいるし、合宿生活自体は楽しいんですよね。でも、1人で考えてしまう時間もあるし……」
自ら納得した上でのサポートメンバーではあったが、実際に過ごす日々はつらかった。消化し切れない思いはフラフラと日和見的に動く。その度に胸を痛め、それでも気持ちを高めて練習に参加する。だが、夜ともなればひとり暗闇に思いをはせる日々が続いた。
大会が始まると、結果のためにこれ以上ないほどの一体感が代表チームに生まれていた。チーム全体での守備について全員が納得の表情を見せて一丸となっていた。「どうしても勝ちたかった」と本田圭佑が振り返れば、得点をしたいであろう大久保嘉人でさえも「これが親善試合だったらやっていないようなサッカー。それでも、結果を出すためにみんなで納得してこのサッカーをやっていたんです」と述懐するようなチーム状態だった。
だが、練習こそ共にするが試合を外から見守るだけの香川の意見は若干異なった。「もったいないというか、何て言うんだろう。もっともっと攻撃できるのではないかと思う。みんなで守備っていうのもすごいけれど。そうじゃなく個の力を出すことももっとできるんじゃないかな。松井(大輔)さんとか大久保さんとか、持ち味をもっと出せると思う」
精神的にも物理的にも日本代表チームとともにいる。ただ、サッカーを外から見つめるその目線は客観的に保たれたままだった。
「4年後は中心選手に」
「世界レベルでもまれて戦わないといけない。僕とか、日本全体の若い選手がもっと世界に出て行かないと、4年後も勝てないなと感じました。やっぱり、今回の4試合を通して、日本は守ることに精いっぱいというところがあった。でも、本当はもっと攻撃的なサッカーができたと僕は思っています。何よりも個の力が足りない。Jリーグでいくら経験しても、この舞台では通用しないと思いました。ラストの精度、球際の強さなど、世界レベルを経験して、この舞台に戻ってきたい」
ピッチにこそ立てなかったものの、W杯の緊張感もレベルの高さも感じた。充実感も残った。そして、結果的にこのつらい日々を選択したことが、新たなる舞台へ旅立つ彼を、より強く後押しすることとなった。
「おれはこれからドルトムントで戦わないといけない。この40日間はつらかったし、試合で勝ち進むにつれて、悔しくて試合に出たい思いが込み上げてきた。とにかくそのピッチに立ちたかった」
すぐそばにあるのに手が届かない、もどかしさと歯がゆさと悔しさとともにあった40日間。だが、ほかの誰とも異なった経験値を得て、香川は新天地ドイツへと旅立った。
「4年後は中心選手としてやらなくてはいけない」
あらためて強く抱いた思いを胸に、香川はブンデスリーガでの戦いに挑む。
<了>