W杯の勝者はオランダサッカー=決勝プレビュー

スペイン代表はバルセロナの鏡

現在のスペインはバルセロナの鏡のようなチームだ 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 1カ月間にわたって行われたワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会は、残すところ決勝のみとなった。11日の夜、オランダとスペインが共に初優勝を懸けて激突する。守備的なチームが多かった今大会において、最終的には“オランイェ”(オレンジ=オランダ代表の愛称)と“ラ・ロハ”(赤=スペイン代表の愛称)という、華麗な攻撃サッカーを掲げる2カ国がファイナリストとなった。そして、両チームがいずれも、ヨハン・クライフと深いつながりがある点が興味深い。

 スペイン代表はバルセロナの鏡のようなチームである。リオネル・メッシ(アルゼンチン代表)がいないかわりに、何人かのレアル・マドリーの選手(イケル・カシージャス、シャビ・アロンソ、セルヒオ・ラモス)、ビジャレアルのサイドバック、ジョアン・カプデビラを加えただけだ。ドイツとの準決勝では、実にバルセロナの選手が7人もスタメンに名を連ねていた(ダビド・ビジャは加入したばかりだが)。

 セスク・ファブレガスも含むバルセロナのカンテラ(下部組織)育ちの選手たちは、小さいころから“ラ・マシア”と呼ばれる寮で暮らし、併設の練習場で一緒にトレーニングを行ってきた。そこで採用されているシステムが、40年近く前にオランダ人のリヌス・ミケルスが提唱した「トータルフットボール」だ。そして、クライフはバルセロナで選手として、監督として、このスタイルを体現した。

 また、「トータルフットボール」を掲げ、“時計じかけのオレンジ”の異名で世界を席巻したのは、1974年西ドイツ大会のオランダ代表だった。クライフを擁したチームは決勝にまで上り詰めたが、最後は地元西ドイツの前に屈した。ベルト・ファン・マルワイク率いる今大会のオランダは現実路線を採ってはいるが、根源にはミケルスのサッカーがある。オランダサッカーの流れを汲むバルセロナとは兄弟のような間柄なのだ。

オランダ人が育てたバルセロナ

クライフ率いるバルセロナは92年、初の欧州王者に輝いた 【Photo:AFLO FOTO AGENCY】

 バルセロナファンにとって忘れられないのは、92年のウェンブリー・スタジアムでのチャンピオンズリーグ(当時はチャンピオンズカップ)初優勝だろう。サンプドリアとの決勝、若きクライフはベンチで指揮を執り、金髪のオランダ人DFロナルト・クーマンが延長後半にミドルシュートをたたき込んだ。この伝説のゴールシーンは、2005−06シーズンにバルセロナが2度目の欧州チャンピオンになるまで、繰り返しテレビで放送されたのだった。

 話はこれだけでは終わらない。バルセロナとオランダ人とのかかわりはまだ続くのだ。90年代後半、ホセ・ルイス・ヌニェスからジョアン・ガスパールに会長が変わった時代、監督はクライフからボビー・ロブソンを挟み、アヤックスで実績を残したもう1人のオランダ人、ルイス・ファン・ハールに代わった。
 当時のバルセロナにはたくさんのオランダ人選手がいた。マルク・オーフェルマルス、ウィンストン・ボハルデ、ミハエル・ライツィハー、フランク・デ・ブール、フィリップ・コクー。フィンランド人のヤリ・リトマネンですら、アヤックス仕込みだった。そして、何よりパトリック・クライファートはセンセーショナルなストライカーだった。

 03年には、当時低迷していたバルセロナの監督に、オランダ人のフランク・ライカールトが就任。前年に率いていたスパルタ・ロッテルダムでは結果を残すことができなかったが、リーグ連覇、2度目のチャンピオンズリーグ優勝など結果を残した。この時のチームには、マルク・ファン・ボメルとジオバニ・ファン・ブロンクホルストがいた。日曜日にサッカーシティでスペイン代表が戦うオランダの主軸である。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、カルレス・プジョルらにとっては、かつてのチームメートとまみえるということだ。さらにオランダベンチには、フィリップ・コクー、フランク・デ・ブールというバルセロナOBが控える。

初の栄誉を手にするのは?

オランダは好調を維持するスナイデル(右)が攻撃をけん引する 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 素早いパス回しによってできるだけ長くボールを保持することが、バルセロナ、そしてスペイン代表のシンプルなコンセプトだ。自分たちのところにボールがある限り、相手に攻撃されることはない。と同時に、考える時間を確保し、ゲームをコントロールすることができる。

 今のオランダ代表には、そこまでの完成度はない。好調なスナイデルの決定力も手伝って、効率の良いサッカーに徹している。あくまで内容より結果、というわけだ。ファン・マルワイクは決勝に向けた会見で、「スペインはバルセロナの影響を受けており、バルセロナはクライフとミケルスの影響を受けていると思う」とオランダサッカーへの称賛と優位性を口にしている。

 当のクライフは、自身のコラム内でスペインが有利であると断言した。日曜日の夜、サッカーシティで2つの似通ったスタイルが激突する。「カタルーニャ化したスペイン」対「伝統的なオランダ」――果たして初の栄誉を手にするのはどちらだろうか。いずれにしても、すでに「オランダサッカー」が勝利していることだけは間違いないだろう。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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