クリフ・リーの移籍先、ヤンキースから一転レンジャーズへ

丹羽政善

取材者にとっても最高の投手

開幕には出遅れたが、マリナーズでは5完投を含む8勝(3敗)、防御率2.34の好成績を残した 【Getty Images】

 もちろん、会話そのものは架空だが、決まるまでの流れはこんな感じらしい。

 今日(現地時間9日)の午後まで、マリナーズとヤンキースは合意間近だった。しかし、アダムスのケガをマリナーズサイドは懸念。ためらっているという情報をキャッチしたレンジャーズが、スモークを交換要員に加え、押し切ったそうである。

 9日のヤンキース戦で先発予定だったリーはその日の午前、ズレンシックGMにテキストメッセージを送ったという。

「今日、僕は先発するの?」

 ヤンキースのうわさをすでに耳にしていた。

 ズレンシックは、「ちょっと待ってくれ」とメッセージを返した後、少しして正式な決定を電話で伝えたそうだ。

 リーがレンジャーズに行きたかったかどうかはわからないが、少なくとも最下位のチームから地区首位のチームに行けるのである。断る理由はないだろう。ましてや、おそらく数カ月のことである。本当に行きたいところには、シーズンが終わってFAになってから行けばいい。

 それにしても、マリナーズは、同地区のトップにエースを渡した。メジャーでも珍しいトレードだが、今季に限って言えば、「どうぞ、今年は頑張ってください」と敵に塩を送ったも同然か。

 シアトルのメディアは、またこんな冗談を言い合っていた。

「番組の最後、みんなが手を振っている中で、ズレンシックが白旗を振っていたらおかしいな」

 ただ本当は、少し寂しいから、彼らもそうやってふざけ合っているという感じ――。少し前まで、誰もがこう口にしていたのだから。

「これまで取材した中では、最高の投手だ」

 グラウンドを離れても、素晴らしい選手だった。2月のキャンプを思い出す。

「時間があれば、少し話を聞かせてもらいたいんだけど、いつだったら都合がいいですか?」

「えっ? 都合? いつだっていいよ。適当に捕まえてよ」

<了>

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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