踊るガーナと謙虚なセルビア人監督=アフリカ全土の希望を背負って

ガーナの強さとは

ガーナを率いたライェバツ監督。組織的な守備をチームに植え付け、W杯を戦い抜いた 【Photo:Maurizio Borsari/アフロ】

 ガーナ代表を率いたのは、ボラと同じセルビア人監督だ。しかし、実績という点では全く及ばず、知名度でも圧倒的に劣るミロバン・ライェバツである。それでも、グループリーグ初戦では、同郷の先輩であるラドミル・アンティッチが指揮するセルビアに1−0で勝利。その後は2位通過で決勝トーナメント進出を果たした。ガーナを除くアフリカ5カ国が早々と敗退する中で、彼らは母なる大陸最後の希望として勇敢に戦った。
 2日に行われた準々決勝のウルグアイ戦はまさにドラマの連続であった。アフリカ初となる4強入りの夢はPK戦というあまりにも冷酷な勝敗決定方式によって断たれてしまったが、世界中のフットボールファンに強烈なインパクトを残すことに成功した。

 もちろん、ベスト8進出という結果は決して偶然のものではない。アフリカ王者には過去4度輝いているし(今年1月のネーションズカップでは準優勝)、前回のW杯・ドイツ大会では初出場ながら決勝トーナメントに進出する快挙を見せた。昨年エジプトで行われたU−20W杯では決勝でブラジルを下して世界王者に輝いた。同大会で活躍したアンドレ・アイェウ、ジョナサン・メンサーらは1年も経たずして、南アフリカのピッチを駆け巡ったのである。

 それでも、歴史的勝利を挙げられなかったのは、深刻な「決定力不足」が最後まで解決されなかったからである。今大会のガーナは5試合で5ゴール。エースのギャンが挙げたのは3得点だが、そのうち2ゴールはPKによるものだ。
 この決定力不足はデータが雄弁に語っている。アフリカの強豪国とはいえ、過去のチーム戦績を逐一調べるほどのファンはさすがに少ないだろう。だから、「直近15試合、90分間で2ゴール以上を決めたことがない」という事実に驚く人も多いはずだ(わたしもあぜんとした)。もちろん、ガーナ国内の批評家たちはチームに厳しい非難を浴びせていた。一方でライェバツは得点力のなさを逆手に取り、堅守速攻のスタイルを築き上げた。アフリカのチームらしからぬ組織的な守備を構築させる一方で、アフリカ人特有の爆発的なスピードを生かしたカウンターを仕掛ける。シンプルだが、実に効率的なサッカーを標ぼうしたのである。

謙虚なライェバツ

 そのライェバツだが、大会前、セルビア国内で彼のことをよく知る者は多くなかった。国内屈指の名門クラブ、ツルベナ・ズベズダ(レッドスター)を率いた経験はあったが、代理監督としてわずか2試合のみ。その後は国内の中堅クラブで指揮したものの、目立った功績を残すことなく、2008年から突如ガーナ代表監督に就任したのである。なぜ彼のような、“すべてにおいて謙虚な”人間が一国の運命を担ったのかは、正直なところ、不思議でしょうがない。とはいえ、前回大会でもガーナはラドミル・ドゥイコビッチという同じセルビア人監督とともに、初出場ながら決勝トーナメント進出を果たした。おそらく、そのあたりのコネクションもあったのだろう。

 チームマネジメントには長けていた。問題児だが、才能溢れるスレイ・ムンタリをチームにとどめることにも成功した。ケビン・プリンス・ボアテングというドイツのユース代表で活躍したホープを、ガーナ代表に招集したことも大きな賭けであった(結果はご存じの通り)。ガーナ最大のスター、マイケル・エシアンをけがで欠いていても、スティーブン・アッピアーが不調でも、ライェバツは素晴らしいチームを作り上げた。

 とはいえ、ライェバツが今後もガーナ代表を率いることはないだろう。彼自身、「チームにとどまるかどうか、決めかねている」と話している。アフリカ初の4強を目指して戦ったが、惜しくも夢はかなわなかった。セルビア人には似つかわしくない物静かな男の戦いは、こうして幕を閉じた。ただ、彼が作り上げたガーナ代表は、これからも歌って踊り続けるだろう。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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