踊るガーナと謙虚なセルビア人監督=アフリカ全土の希望を背負って

名将ボラの言葉

ガーナはベスト8で散った。アフリカ勢初の4強入りは夢に終わった 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 名将から発せられる言葉は、時として単純過ぎて、面白みに欠けることがある。彼らの独特の言い回しに、われわれは一種の爽快感を味わい、また美徳を感じるわけだが、それを常時求めてしまうことはメディアの悪い癖なのだろうか。
 いつの時だったか、ボラ・ミルティノビッチもそうだった。歴代のワールドカップ(W杯)で5つのチーム(メキシコ、コスタリカ、米国、ナイジェリア、中国)を率いたセルビア人監督からも、実につまらない答えが返ってきた。こちらが用意した質問は「世界の大舞台で成功するために必要なものは何か」であった。

「その答えは、“チーム内が活気に満ち溢れていること”にほかならない。W杯は世界で最も偉大な大会である。故に、わたしは、選手たちがフットボールを楽しみ、気負いせずに試合に臨むことを求めている。チーム内の雰囲気が良くなければ、良い結果など望めるだろうか」

 実にありがちな答えであった。誰もが分かっているし、誰もが同意する“正しい意見”だ。頭の奥底をくすぐるようなウイットに富んだ言葉を期待していたのに、この“想定外の”答えを受けて、わたしは少々落胆したことを今でも鮮明に覚えている。もちろん、ありきたりな質問を投げ掛けた自分も愚かだったのかもしれないが。

歌と踊りで楽しむW杯

 あれから数年、W杯・南アフリカ大会で躍進するガーナ代表を追いながら、過去の自分の浅はかさを恥じることになった。ガーナ代表は素晴らしくまとまっていた。何よりW杯を楽しんでいた。滞在先のホテルではとにかく歌って踊る。ホテルで働くスタッフを誘い、一緒になって踊る。トレーニングが始まる前でも、試合開始前でも、やはり同じように歌って踊るのだ。また、彼らはメディアに対しても自由で柔軟な態度をとっていた。非公開練習なんて存在しない。ロッカールームでの撮影も全く問題ない。自由で大らかな空気がそこに流れていた。

 興味深いことに、チームは南アフリカ到着後、退屈な街と感じたプレトリアを捨てて、“南アフリカのラスベガス”ことサンシティーに滞在先を移した。これはあくまで聞いた話だが、何人かの選手はギャンブルに興じ、ストリップバーで熱狂していたようだ。彼らにとっては1つのリラックス方法だったのかもしれない。

 いずれにしろ、選手たちが太鼓のリズムに乗って、「これでもか!」というほど、歌って踊っている姿を大会中に何度も目にした。数年前にボラが話した「チーム内は活気に満ち溢れている」光景が目の前に広がっていたのある。ボラは、結局正しかったのだ。

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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