チッパー・ジョーンズは恩師コックスとともに“ファイナルシーズン”を迎えるのか?=MLB

上田龍

名将コックスが今季限りで勇退

今季限りで勇退する名将コックス監督。ブレーブスでは25年間指揮を執った 【Getty Images Sport】

 アトランタ・ブレーブスが報道関係者などに配布した2010年版のメディアガイドで表紙を飾ったのは、すっかり丸くなった背番号「6」──今季限りでの勇退を表明しているボビー・コックス監督の後ろ姿を描いたイラストだ。
 ブレーブスで通算25年間指揮を執り、1991年からメジャーリーグ史上最長の14シーズン連続地区優勝(94年はストライキのためシーズン打ち切り)に導き、リーグ優勝3度、95年にはワールドシリーズ制覇も果たし、メジャーの監督として歴代4位の2455勝(ブレーブス2100、ブルージェイズ355/現地時間6月21日現在。以下同)をマークしたコックスは、引退後の野球殿堂入りも確実なものにしている。その花道を飾るように、ブレーブスは驚異のルーキー、ジェーソン・ヘイワードが66試合で11本塁打、44打点、カージナルスから移籍してきたトロイ・グラースが70試合で14本塁打、55打点の活躍を見せるなど、ナショナルリーグ東地区でメッツ、フィリーズを抑え、首位に立っている。

不振のジョーンズも引退か

 そんな勢いづいているチームにあって開幕から勝ち星なしの9連敗を喫している川上憲伸とともに心配の種となっているのは、93年のデビュー以来、ブレーブス一筋でチームを引っ張ってきた現役最高のスイッチヒッター、チッパー・ジョーンズの不振だ。
 4月終了時点で、ジョーンズの成績は19試合で打率2割3分、2本塁打、6打点。6月21日時点でも、56試合で打率2割5分、4本塁打、29打点と、通算打率3割6厘、430本塁打を誇るチーム史上屈指の強打者としては、まったく納得のいかない数字が続いている。開幕から続くスランプやケガで弱気になったのか、6月に入ると突然、ジョーンズの現役引退説がその周辺から流され、大々的に報じられた。目下のところシーズン途中でユニホームを脱ぐことはなさそうだが、ブレーブスファンにとっては、黄金時代を支えたコックス監督とジョーンズがそろって今季で見納めになる可能性も高くなってきた。

注目を浴びた野茂との新人王争い

 ジョーンズの存在が日本でクローズアップされたのは、ブレーブスの正三塁手となって23本塁打、86打点の好成績をマークしながら、野茂英雄(当時ドジャース)に新人王争いで惜敗した95年だろう。翌96年からは8年連続100打点以上、99年にはナ・リーグMVP、08年には6月18日まで4割台を維持するなど打率3割6分4厘で首位打者に輝いたが、川上の入団まで日本人選手が在籍しなかったことなど、ブレーブスの人気がヤンキースやドジャース、レッドソックスなどと比べて比較的地味だったこともあり、彼の活躍が日本で大々的に報道される機会は少なかった。

 しかし、ジョーンズはブレーブス球団史上にとどまらず、メジャーの現役選手、歴代の強打者たちと比較しても特筆すべき実績を残してきた。メジャーリーグで300本塁打以上を放ったスイッチヒッター6人(ほかにミッキー・マントル、エディー・マレーら)の中で唯一、通算打率3割をマークしており、また400本塁打以上を放った45選手のうち、1球団で現役生活をまっとうした11人(ほかにマイク・シュミット、ジェフ・バグウェルら)のひとりでもある。11人のうち、ジョーンズと資格取得前のバグウェルを除く9人は、全員野球殿堂入りを果たしている。
 引退後の「クーパーズタウン直行切符」を手にしているといっても過言ではないほどの実績を残しているジョーンズだが、ここまでの野球人生はまさにコックス監督抜きでは考えられないものだった。

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著者プロフィール

ベースボール・コントリビューター(野球記者・野球史研究者)。出版社勤務を経て1998年からフリーのライターに。2004年からスカイパーフェクTV!MLB中継の日本語コメンテーターを務めた。著書に『戦火に消えた幻のエース 巨人軍・広瀬習一の生涯』など。新刊『MLB強打者の系譜「1・2・3」──T・ウィリアムズもイチローも松井秀喜も仲間入りしていないリストの中身とは?(仮題)』今夏刊行予定。野球文化學會幹事、野球体育博物館個人維持会員

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