チッパー・ジョーンズは恩師コックスとともに“ファイナルシーズン”を迎えるのか?=MLB

上田龍

長年にわたりチームを支えた二人

開幕から不振が続き、現役引退も報じられたジョーンズ 【Getty Images Sport】

 フロリダ州ジャクソンビルのボールズ高校で投手、内野手として大活躍していたラリー・ウェイン・ジョーンズ、愛称“チッパー”が、アトランタ・ブレーブスからドラフト全体1位指名を受けて入団したのは90年で、このときスカウティングの陣頭指揮を執ったのがゼネラルマネージャー兼監督だったコックスだった。
 ジョーンズがブレーブスのレギュラーとなった95年、チームは91年以来のワールドシリーズ進出を果たし、インディアンスを4勝2敗で下して、球団史上3度目、66年のアトランタ移転後は初の世界一に輝いた。以来、ジョーンズとコックス監督の姿は16シーズンにわたって常にブレーブスのダッグアウトにあった。

 そんな二人の結びつきを象徴する記録がある。ジョーンズの通算本塁打数は6月21日現在で430本だが、そのすべてはコックス監督のもとで記録したものだ。選手の移籍や監督の交代が多いメジャーリーグで、この数字はファンやメディアの注目を集め、テレビ中継の「トリビアクイズ」などにもよく出題される。過去、選手が一人の監督のもとで300本塁打以上をマークした例は下記(左が選手、右が監督)の通りだ。

1.マーク・マグワイア&トニー・ラルーサ(アスレチックス、カージナルス)531本
2.ベーブ・ルース&ミラー・ハギンズ(ヤンキース)467本
3.バリー・ボンズ&ダスティー・ベイカー(ジャイアンツ、ベイカーは現レッズ)437本
4.チッパー・ジョーンズ&ボビー・コックス(ブレーブス)430本
5.アルバート・プホルス&トニー・ラルーサ(カージナルス)381本
6.アンドルー・ジョーンズ&ボビー・コックス(ブレーブス、ジョーンズは現ホワイトソックス)368本
7.ミッキー・マントル&ケイシー・ステンゲル(ヤンキース)320本
8.ケン・グリフィー&ルー・ピネラ(マリナーズ、ピネラは現カブス)311本
9.ルー・ゲーリッグ&ジョー・マッカーシー(ヤンキース)306本
10.ジミー・フォックス&コニー・マック(アスレチックス)302本

ジョーンズの最後のゴールは…

 1871年に創設されたメジャーリーグ最古のチームにあって、コックス監督とともに空前の黄金時代に貢献してきたジョーンズも、連続100打点以上の記録が96打点で途切れた04年からは毎年故障に見舞われ、96年から03年まで年平均157試合に出場していたのに対し、04年からの5シーズンは平均124試合にとどまっている。30本塁打以上は04年、100打点以上も07年を最後に途切れ、昨年は04年以来最多の143試合に出場したものの、打率は首位打者を獲得した前年から1割も低い自己ワースト2位の2割6分4厘にまで落ち込んだ。06年、観客動員数が減少したチームのために、自ら400万ドル(約3億6000万円)近い年俸カットを申し出たチーム愛が示すとおり、決して個人記録に執着するタイプではないが、それでも通算打率3割のラインは気になるはずだ。

 ノンフィクション作家デイビッド・ハルバースタムの名作『さらばヤンキース』には、現役最後の1968年にマントルが通算打率3割を割った日の様子が描かれている。マントルは結局2割9分7厘で現役生活を終え、95年に肝臓がんのため亡くなるまで、このことを生涯悔み続けた。引退の可能性が高まったジョーンズだが、その姿にマントルのような悲壮感は漂っていない。希代の名将コックスと手を携えてチームに黄金時代をもたらし、自身もケガを除けばほぼ満足のいく個人成績を残してきた自負があるからだろう。ナ・リーグ新人王レースの最有力候補であるヘイワードという後継者も出現した。
 残された目標は、あと48本となった通算2500本安打と、26まで迫った1500打点で、打点をさらに10積み重ねれば、マントルを抜き、エディー・マレーに次ぐ、スイッチヒッターとして歴代2位の記録に躍り出る。
 だがそれよりも、ジョーンズが目指す最後のゴールは、95年以来となるワールドチャンピオンの座にチームを導くことに違いない。

<了>

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著者プロフィール

ベースボール・コントリビューター(野球記者・野球史研究者)。出版社勤務を経て1998年からフリーのライターに。2004年からスカイパーフェクTV!MLB中継の日本語コメンテーターを務めた。著書に『戦火に消えた幻のエース 巨人軍・広瀬習一の生涯』など。新刊『MLB強打者の系譜「1・2・3」──T・ウィリアムズもイチローも松井秀喜も仲間入りしていないリストの中身とは?(仮題)』今夏刊行予定。野球文化學會幹事、野球体育博物館個人維持会員

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