“成功へ導く選手”本田のゴールは必然=中田徹の「南アフリカ通信」
本田は“タレント”の持ち主
この5月、ティルブルフのビレムIIスタディオンで毎年恒例の「リヌス・ミケルス・アワード(プロ、アマ、ユースなど、各カテゴリーの年間最優秀監督、ユースチームの表彰式)」が行われた。そこは指導者のためのデモンストレーショントレーニングや講演の場でもあった。
講演は「オランダにおけるタレントとは何か?」という演題だった。何せ、タレントという言葉は曖昧(あいまい)ときている。そこでKNVBは“タレント”という言葉の共通理解を図ろうとしたのである。
KNVBが訴えたのは、「決して練習だけでタレントを判断してはいけない。まずは試合を見ること。練習でいくらテクニックやパスがうまくても関係ない。タレントとは『チームを成功へ導ける選手』のこと。例えばストライカーなら、ゴールを奪えば『素晴らしい』、ゴールに結びつくプレーをすれば『良い』、ボールを奪われなければ『まずまず』、ボールを失い続けたら『ダメ』という評点をつける。いかにゴールを奪ったかは関係ない。また、その試合がどのレベルか、チームにとっていかに重要かという点も見ないといけない。その上でさらに、細かな点(テクニックや性格)も見極めていく」というものだった。
つまり、結果を出せる選手がタレントなんですよ、ということである。ファン・ペルシやスナイデル、ロッベン、ファン・デル・ファールトのようなファンタジスタの才能を発掘するのは簡単だが、カイトのようなファンクショナル・テクニックの持ち主を発掘するのもオランダ育成の秘密である。
大舞台で本田圭佑が貴重なゴールを奪った。DFの視界から消えながらファーでボールをトラップ。左足のトラップは右足にぶつかるも運よくシュートの打ちやすい位置に収まり、冷静に……。ズバリ! ここで言う「運よく」とは、サッカーの世界では立派な必然性を含んでいる。
本田は期待されてVVVに入団したものの、2部降格という絶望を味わう。しかし、そこは貴重な意識改革の場だった。日の当らぬ2部リーグで黙々とゴールを重ね、チームの低迷期には実力、性格、リーダーシップを買われてキャプテンに選ばれ、チームの優勝、1部昇格に貢献した。今季はオランダの1部リーグでセンセーションを起こし、本田はオランダ人から愛されながら、1月にCSKAモスクワへ移籍。活躍のステージをチャンピオンズリーグへ上げ、セビージャ戦で結果を残し、インテル戦では悔しい思いをした。また、Jリーグともオランダリーグとも違う文化のロシアリーグでのプレーに悩みながら順応しようとした。その積み重ねがワールドカップという大舞台での決勝ゴールという形になったのだ。
「タレントとはチームを成功へ導く選手のこと」
そんなKNVBの指針を頭の中でめぐらせながら、日本の勝利をかみしめていると、ほとんど眠れぬまま朝が来ていた。