女子短距離の福島、世界に近づける可能性

高野祐太

中村監督が取り入れた新たなアイデア

 北京五輪でブレークした福島の走りの最大の特徴は、スタートから飛び出し、30メートル付近で早くもトップスピードに達してしまう爆発的な加速力だ。
 だが、「今は、(後半から遅れない展開にするために)50メートルくらいまで加速するつもりでやっています。でも私にとっては、長く加速するからといって緩やかな加速じゃだめなんです」
 つまりそれは、今よりももっと加速度を高めた上でトップスピードも上げるという、高い質の走りを意味する。「将来的に(そうなれたらいいですね)。相当難しいことですけど」。
 それを実現するためのアプローチとしては、ストライドに関係する要素にヒントがあるかもしれない。それを中村監督は早くから意識。指導では「ルンルン(力を抜いて伸びやかに走ること)でゴールを駆け抜けろ」などの言い方をしていた。北京五輪の時期には、競泳の北島康介が平井伯昌コーチの指導の下、ストローク数を減らした泳法に取り組んでいることに刺激を受けた。「福島をそうさせるということではないけど、1つのアイデアとして面白いなと思いました」。
 翌09年の春には、「ストライドとかギアチェンジに関することが課題になるか」との問いに、「彼女はラストをピッチで駆け上がろうとし過ぎるところがあるからね」とも答えているし、世界選手権の後には、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の飛んで行くような走りに合理性があるという分析に得心したりもした。
 一歩ごとの力強さが増したことについて、中村監督は「決して大またにしたということではなくて、ピッチが鋭くなることで当然ストライドも伸びることになるんです」と説明。目指すべき方向の1つは、高速ピッチにストライドの隠し味をピリリとまぶした「進化形高速ピッチ」か。元来が、福島はピッチ型ではあってもストライドが小さくない特徴を持っている。専門家が「速いピッチをしながらストライドを伸ばすのは容易なことでない」と舌を巻くほどのものなのだ。

 中村監督は言った。
 「体力では日本人は黒人にとてもかなわない。日本人が世界と戦うには福島のようなやり方が1つの答えでしょう。福島なら世界を追い抜くことはできなくても限りなく近づくことならできる」と。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント