K−1煽り映像への情熱を語る(2)――佐々木敦規氏 「アンディ・フグが亡くなる直前、僕は悲しい仕事をしていました」

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ハイアンの取材をしていました

アンディ・フグへの思いは深く…… 【(C)FEG Inc.】

――ああ、別の仕事をされていたと

 いえ……、本当に不謹慎で悲しいことなんですけど、僕の耳には“もうヤバイ”としか入ってこなくて、アンディが亡くなった場合に備えて、過去の映像を編集していたんです。各局に報道素材を渡さなければいけなくて、特番も組まれたりするので、“名シーンを一番、分かっているのは佐々木だろう”ってことで、徹夜で彼の名場面をつないでいましたね。こんなに悲しい仕事はなかったです。

――まだ亡くなっていないわけですし、どうにか生きてほしいと願いながらの編集は切ないですね

 スイスまで取材に行って、仲良くさせてもらって、大事なときに現場へ行けない。テレビ人の宿命とはいえ、こんなに辛いことはなかったですよ。笑顔のアンディや、凛々しい姿の彼の映像を編集しながら、涙をこらえるので精一杯でした。

――『SRS』でも特集されましたね

 『SRS』は、持ち回りでディレクターが週ごとに担当していて、たまたま僕がその回だったんです。でも、アンディが倒れる前に、僕はPRIDE.10の煽り番組として、彼も亡くなってしまいましたけど、ハイアン・グレイシーさんの取材をすでにしていたんですよね。この特集の後半に、アンディが亡くなったバージョンと、亡くならないバージョンを用意していました。でも、僕らの予測よりも早く亡くなってしまって、すべて飛びましたね。追悼番組を生で放送したんです。

――『SRS』は、当時、何人のディレクターが担当していたのでしょうか?

 4、5人くらいですね。チーフがいて、僕らで各回を担当するようなローテーションです。

――PRIDEの煽り映像で有名な佐藤大輔さんは、メンバーに入っていたのでしょうか?

 彼は、『SRS』はほとんどやっていないんじゃないかな。僕の記憶する限り、1本か2本だと思います。

――あまり接点はないのですね

 彼はADで入ってきて、僕らは第一線でガンガンやっていましたからね。接点はなかったかな……。

――K−1の中継に関しては

 あ、僕らは中継にはほとんどタッチしていなかったですね。伝統なのか、中継に関しては、フジテレビの局員がメインで制作します。これには、大輔も関わっていたかな。中継車も、局員しか座らない。僕ら外部の人間は、そこには行けないんです。僕らができることは、バックヤードの中継とか、それこそ煽り映像ですかね。僕らは『SRS』がメインでしたから。

煽り映像を進化させたPRIDE

――煽り映像は、第1回のK−1 GPからあったのでしょうか?

 あったと思います。でも、それはリングアナが呼び込むための紹介映像だったんじゃないですかね。それが進化していったと思います。

――佐々木さんは、煽り映像の制作をしていたのですか

 1本か2本は作ったかもしれませんけど、あくまでもメインは『SRS』でしたからね。ここで取材した材料を煽り映像に使ってよ、と局員に渡すような流れだったと思います。これまでは、選手紹介、ガイド的な役割だった煽り映像を、ワクワクさせたり、意味を持たせるようにしたのが、大輔だったと思いますよ、PRIDEで。

――なるほど

 それまで紹介映像は、ほとんどタッチしてきませんでしたからね。プロモーションのやり方が違ったというか。今でこそ、コアに向けた映像が多くなってきましたけど、当時はいかにマスにするかがメインでした。選手を紹介する分かりやすい映像から、アートというか、一つの作品に見せるように進化させたのはPRIDEでしょう。大輔以外にも優秀なスタッフが、揃っていたと思います。

――そうなのですか

 細かく言うと、いろいろあるんですよ。僕らの場合もそうですけど、編集所のオペレーターが優秀だったりしますね。彼らは、K−1もPRIDEもそうでしょうけど、僕ら以上に映像を観ているわけですよ。それで、細かく覚えています。“ミルコが睨んだこの一瞬の1秒半が、いいよ”とか。

一瞬を切り抜く作業が重要

FEG映像チームの作品は、「動画」コーナーからチェック! 【(C)FEG Inc.】

――それは凄い!

 僕らの勝負は、そういうところにあります。パッと見たときに、目がキラッと光る、この一瞬を切り抜くとかね。そういうのは、普通に練習を流すよりも、生きてくるわけです。そういう要素を散りばめて、初めて意味のある作品になってくるわけですね。それは、オペレーターとか、周りのスタッフが知恵を出し合って、作っていったものだと思います。それをまとめたのが大輔ですし、煽り映像を一つのジャンルにしたのが彼ですからね、凄いと思いますよ。その流れを今、K−1が追っている感じですね。

――K−1の煽り映像を手がけるようになってきて、どんな点が難しいのでしょうか?

 僕らがご依頼を受けて、本格的にやらせてもらうようになったのは、昨年くらいからなんですけど、総合の選手と比べて、個性が確立されていない選手が多いことがK−1の難しさですね。

――その違いは、どこにあるのでしょうか?

 どうなんでしょう。競技性もあるでしょうし、アスリートだなという感じですね。セルフプロデュースをする選手が少ないし、そうする必要がなかったのかもしれませんね。

――しかし、K−1ファイターの人間性を打ち出して、マスにしようとされていたのですよね

 僕らは、選手個人を盛り上げる発信先を『SRS』と捉えていましたから。すべてを注ぐのは、30分の『SRS』と、大会の1週間前に『プロ野球ニュース』で特集される映像にあったわけです。僕らは、ほとんど中継に関わっていなかったので。その『SRS』と『プロ野球ニュース』で作ってきた映像素材を上手に煽り映像としてやってきたのが、PRIDEであり、大輔だったと思います。

煽り映像にテーマは一つでいい

――3分の煽り映像と、30分の『SRS』では作りが違うわけですね

 まったく違います。3分は、幻想をもたせるためには、わりと嘘もつけるというか、誤魔化しもできるものなんです。でも、30分は、すべてを見せないといけない。この選手は凄いと煽っても、尺が長いので、すぐに幻想が崩れてしまう。それを、いかにキープして作れるか、期待をもたせることができるのか、この難しさありますよ。紹介映像に関しては、ここ最近ですよね。FEGのオフィシャルサイトに『K−1チャンネル』というものができて、煽り映像やトレーラーの仕事をいただくようになってきたのは。

――煽り映像は難しいですか

 もちろん、難しいですよ。誤魔化しがきくと言いましたけど、その分、深くないといけない。一点集中が必要になってきます。

――一点集中ですか

 はい。ある選手の魅力が5つあるとしたら、30分の中ではすべて紹介できますけど、3分だと難しい。じゃあ、どれを選ぶのか。その目線が難しいわけです。逆に一つ選ぶことができれば、あとは簡単ですよ。でも、その一つを選ぶセンスがないとダメですからね。そこが難しいわけです。僕が、うちのスタッフにいつも言うのは、紹介映像とか煽り映像には、何か一つでいいと。二つも三つもいらない。ただ、その一つを選ぶのは、センスなんだよと。それが重要なんです。

※第3弾「イン点の打ち方が、煽り映像で重要になってきます」へと続く。

【PROFILE】
佐々木敦規(ささき・あつのり)
1967年4月8日生。バラエティ、アイドル、お料理、格闘技、プロレス番組などなど、幅広い分野で活躍しているTVディレクター、演出家。フジテレビの伝説的格闘技番組『SRS』ではディレクターを務め、多くのファイターたちを世間にひろめ、格闘技の知名度アップに大いに貢献した。現在はFEGオフィシャル映像チーム代表として、K−1海外中継、スカパー!PPV、K−1プロモーションビデオの制作指揮をとっている。FILM Design Works主宰、一児のパパ。

■ツイッター http://twitter.com/Atsunorisasaki/
■FILM Design Works http://filmdesignworks.com/

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