石川、ジョーカーは最後に滑り込む=完敗の中で見えた唯一の希望
貪欲にゴールに向かいビッグチャンスを作る
絶対的なスピードを武器とする石川は切り札となる可能性を秘めている。岡田監督の決断はいかに? 【Photo:徳原隆元/アフロ】
後半開始から登場した石川は、練習とは微妙に違う4−1−4−1の右MFに入った。不安定な守備を修正するため、失点した後に岡田監督が稲本潤一をアンカーに動かし、システムを変えたからだ。それでも貪欲(どんよく)にゴールに向かう仕事は同じ。「自分たちが低い位置にいるときはワイドに張って、ボールのもらえる中へ動いたり、シュートまで持っていくようにと監督から指示を受けた。点が欲しかったんで、そのへんはかなり強く言われました」と石川も語った。
その指示通り、彼は最大の武器である速さで局面の打開を試みる。最初の決定機は中村俊との絡みから生まれた。後半14分、中央の引き気味の位置から中村俊が出した浮き球のパスに反応。相手守備陣の背後に抜けてGKブルキッチと1対1になった。オフサイドと判定されかねない際どい飛び出しだったがホイッスルはなし。しかし、絶好のチャンスもシュートをGK正面に飛ばしてしまい、惜しくもゴールは奪えなかった。
「最初ニアの下を狙おうとして、判断を変えてファーを狙ったんですけど、コースが甘かったですね。2−1になっていたら試合が違う形になっていた。そこが僕の今の実力。質の部分を反省してやっていかないといけないですね」と本人も悔しさをにじませた。それでも中村俊との絡みからビッグチャンスを作ったことはプラスに考えられる。
岡田監督は攻撃の切り札をどうする?
「相手は選考の色合いが強くて、最後はGKも出てきた。それが僕自身、すごく悔しかった。対日本がメーンではなく、競争のための試合にさせてしまったのが情けなかったですね。でも、僕の中ではもっとやれると感じた。結果が出ていないのにそういうことを言うのはおかしいけど、相手のラインが下がったり、ワイドに取ったときにマークがあいまいになったりして、1対1の勝負になったときにはいい間合いでやれるなと思いましたから」と彼は堂々と言ってのけた。
不本意なゲームにあって、石川が唯一の希望だったことは間違いない。岡田監督は今回の失敗を踏まえ、新戦力より最終予選から積み上げてきた選手たちを選ぶ方向に傾くだろう。2列目要員には中村俊、松井大輔、玉田圭司、大久保嘉人ら実績ある人材がそろっており、石川といえども23人枠に食い込むのは容易ではない。しかし、スピードという世界に通じる絶対的な武器を持つ切り札(ジョーカー)を南アに連れて行かなくていいのか。この点は最後まで熟考すべきではないだろうか。
チャンスの回数こそ少なかったが、中村俊や遠藤ら攻撃の軸を担う選手たちとのコンビは悪くなかった。約3週間のW杯直前合宿でお互いの間合いを突き詰めていけば、石川がチームに新たな活力をもたらす可能性は大いにある。それを垣間見せてくれたセルビア戦だった。
果たして、1カ月後の本大会登録メンバー発表で「石川直宏」の名前が岡田監督の口から飛び出すのだろうか。
<了>